▼苦境が垣間見える東芝の台所事情

ただし、東芝の不正会計となると、ことはそう単純ではない。ベテランの公認会計士である前川氏が「会計監査の穴」と嘆息するほど容易には発見できない手法を用いているからだ。同社は、工事進行基準を使った不適切な計算で監査法人をも欺いたのである。

「工事進行基準とは、収益をいつの時点で損益計算書に計上するかという基準のこと。現行の会計基準では、商品や製品が顧客に引き渡され、それが顧客の所有物になった時点というのが原則になっている」と前川氏はいう。

しかし、ビルの建設など数年の工期を要するものについては、その限りではない。竣工まで待っていたのでは、完成する決算期以外の収益はゼロになってしまうからだ。そこで、工事の進捗度に応じて収益を計上していくことになる。たとえば、100億円の工事を4年間で請け負ったとする。1年目に総工事の25%が完成したのであれば、25億円を収益として計上するわけだ。

実は、東芝のソフトウエア開発業務もこれと似ている。しかも、外見から工事の進捗状況が見えるビルと違い、完成度が判別しにくい。前川氏が問題視する「穴」がまさにこれで、「東芝は赤字になる業務の工事原価を過小にする一方で、未完成の作業に必要な費用も少なくなるように改竄し、収益の過大計上を行っていた」と解説する。

そのほかにも同社は、商品価値の低下した棚卸資産(在庫)に関して、評価損を先送りするなどの粉飾も行っている。その結果、09年3月期から15年3月期まで、総額で1518億円の利益額を不正処理していたと、第三者委員会の調査報告書で指摘されたのだ。前川氏は表のデータを指さしながら次のように語る。

「東芝の過去8年間のCFデータを詳細に見ると、09年3月期を除いて、営業CFはプラスだった。それだけに、粉飾の発見はたやすくない。しかし、投資CFのマイナスが大きすぎる。その結果、事業CFも多くの年度でマイナスになっており、東芝の苦しい台所事情が垣間見えてくる」

たとえ損益計算書は美しく装ったとしても、CF計算書のバランスの悪さは隠しようがない。その点は、東芝もプロデュースなどとまったく同じといっていい。やはり決算書を見るときには、CF計算書を含めた財務3表をバランスよく注視することが大切になってくる。

ただし「その際に簿記のような知識はいらない」と前川氏はいう。財務3表を作るわけではなく、読み手の立場で解説された実用書などで読む力を磨けばいいのだ。そして前川氏は「そばを食べるとき、そば打ちの技術は持っていなくても、きちんとした食べ方を知っていれば、美味しく楽しめる。それとまったく同じことだ」とも話す。

日本の教育の原点ともいえる江戸時代の寺子屋では“読み・書き・そろばん”を奨励し、これができれば自立できるとされた。前川氏は「それを現代流に置き換えると“パソコン・外国語・会計”になる」という。会計を食わず嫌いのままにしてはいけない。前川氏のアドバイスに従って、楽しく決算書を読めるようになってほしい。

(データ提供=前川修満)
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