「デキる男」という虚像を演じると壊れる

だったら、少しレベルを下げるなりすればいいのだが、上司、部下、取引先のすべてに好かれ、信頼されていなければ安心できない。入社以来ずっと、いい人の仮面をつけているので、失敗は許されないと思いこんでいる。

せめて家庭でリラックスできればよいものを、愛する妻を失望させたくなかったらしく、良い夫の仮面を頑なに脱ごうとしなかった。ゴミ捨てに行くときでさえ、きちんとした服に着替え、すれ違う近所の住民に愛敬を振りまき、評判を上げることに腐心するのだ。家事をこなし、妻の話に耳を傾け、欲しがるものは買い与え、妻の親戚関係にも気を使う。

スタイルも気にし、筋トレに余念がなかった。夜は夜で忙しい、性的満足感を与えるタフガイでなければならないと、週に最低2回は妻を抱くのをノルマにしていたからだ。

誰にも心を開かず、実の親との関係も似たり寄ったり。素の自分で接することができないから、友人と呼べる相手もできない。

被告人は自分を取り巻くすべての人からホメられていたかった。欠点のない人間でいれば、仕事も家庭もうまくいくと思い込んでいたようだ。その挙句、精神的に追い詰められ、自分が自分らしく生きていると実感できることがレイプ魔だったとしたら、一体何のために虚像を演じてきたのだろう(判決は懲役30年だった)。

できる男と思われたい。異性には好感を持たれたい。ライバルにスキを見せたくない。ビジネスマンならそれくらいのことは思っている。でも、まわりの人に個性をさらけださなければならないとか、欠点を隠さなければならないとか、考え過ぎは良くない。