マラソン大会から会合まで「タダコーヒー」を提供
そうしたこだわりのコーヒーを、地元の大小のイベントに無料で提供するのも同社の流儀だ。2017年1月29日に全国から2万5000人のランナーが参加した「勝田全国マラソン」では、約3000杯を無料で提供した。この無料提供は、今や大会名物のひとつとなっており、長年の活動で「サザではなく、タダコーヒーだ」とからかわれるほど、知名度を高めた。
地道な地域貢献は東日本大震災でも進められた。震災では同社の本店が被災。店内の食器が壊れ、工場のコーヒー焙煎機も損傷した。幸い人的被害はなかったが、被災後は電気が3日間、水道が3週間不通となり、営業を再開できたのは4月に入ってからだった。
そんな時期でも水戸の駅ビルに「水戸駅前店」(同年5月25日)を開業。次いで「大洗店」(同7月16日)への出店を進めた。大洗は津波の被害を受けたアウトレットモールの中にあり、客足が戻るかは不透明だった。実際、大手カフェチェーン店は再開をあきらめて撤退したという。損得を考えれば進出は中止すべきだったかもしれないが、地元の観光協会の要望を受け、出店を決めた。幸い、その後、客足は戻り、現在は優良店に育っているという。
こうした地道できめ細やかな地域貢献の結果、茨城県を代表する店に成長したのだ。すべての活動が成功したわけではないが、単なる「もうけ主義」ではなかったことは興味深い。近江商人の「三方良し」にたとえれば、「自分良し、相手良し、世間良し」を行った結果、大手が進出してきても固定ファンが離れない店に成長した。
鈴木会長は、東京都内に店舗を出した理由を、「茨城県にこんなコーヒー屋がいることを知っていただくため」と明かす。エネルギッシュな活動で、「コーヒー屋の親父」から「13店舗のオーナー」となった同氏の哲学を、息子である太郎氏をはじめとする次世代が「何を」「どう」受け継いでいくのか。今後の課題だろう。
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(プレジデント社)がある。これ以外に『カフェと日本人』(講談社)、『「解」は己の中にあり』(同)、『セシルマクビー 感性の方程式』(日本実業出版社)、『なぜ「高くても売れる」のか』(文藝春秋)、『日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社)、『花王「百年・愚直」のものづくり』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。