スタバやコメダをしのぐ集客力の理由
人口約15万6000人の茨城県ひたちなか市に本店がある「サザコーヒー」――。同県を中心に13店舗を展開するこの店は、近年になって同市内に進出したスターバックスやコメダ珈琲店をしのぐ集客を誇る。なぜ個人経営の店(個人店)が大手チェーンに勝つことができるのか。その最大の理由が「地域密着の深掘り」だ。第1回(http://president.jp/articles/-/22004)に続き、具体的な手法を分析してみよう。
「コーヒーを深めるために国内外の歴史を学び、現地に足を運んでその国や地域文化に触れるのが、私のモットーです。その歴史や文化をもとに地元・茨城県にちなんだストーリーを創り、商品開発に反映してきました」
サザコーヒー創業者で現会長の鈴木誉志男氏はこう話す。1969年、20代で「且座(さざ)喫茶」(当時)を開業した同氏は、創業前は、東京の錦糸町にある行楽施設・東京楽天地で映画の興行プロデューサーをしていた。「まだ若造でしたが、映画は話題にならないとお客さんに来てもらえない。話題づくりをいろいろ考えました」(同氏)。そうした経験を生かして、時に話題性のある仕掛けを行う。象徴的なのが「徳川将軍珈琲」だ。
これは1998年に放映されたNHKの大河ドラマ『徳川慶喜』にヒントを得て開発したもの。当時の文献を調べると、江戸幕府15代将軍・慶喜(水戸藩9代藩主・徳川斉昭の七男)がフランス人の料理人を雇い、1867年に大坂(現大阪)の晩餐会で欧米の公使をもてなし、コーヒーを出した献立も残っていた。「当時は世界のコーヒー流通の6割をオランダが占めていた」という歴史にちなみ、江戸末期に飲まれたコーヒーを現代風に再現したのだ。
当時オランダ領だったインドネシア産の最高級マンデリンを用い、深煎りで焙煎した。ここからの展開がさらに面白い。縁あって知り合った慶喜の曽孫にあたる徳川慶朝氏がコーヒー好きで、さまざまな種類の豆を飲み比べており、焙煎にも興味を持っていた。そこで同氏にサザコーヒーで焙煎技術を学んでもらい商品開発したのだ。販売するコーヒー豆のパッケージをよく見ると、慶朝氏が焙煎する写真が印刷されている。店で提供するコーヒーは「徳川将軍カフェオレ」の名前で提供して人気商品に育て上げた。