地元の国立大学と商品開発で連携

2016年には、地元の国立大学である茨城大学と連携して「五浦(いづら)コヒー」という商品を開発した。五浦とは県内の北茨城市にある景勝地で、近代日本美術の開拓者として著名な岡倉天心(覚三)が思索のために自ら設計した「六角堂」がある。現在は「茨城大学美術文化研究所六角堂」の名称で同大学が管理するこの建物は、2011年3月11日に発生した東日本大震災後の津波で土台を残して崩壊したが、翌年に再建された。

そうした歴史的場所にちなみ、米国ボストン美術館の館員を務め、欧米諸国や中国・インドに通算24回も船旅をした国際人・天心が飲んだであろうコーヒーの味を再現した。商品名の「コヒー」はコーヒーのことで、天心直筆の手紙の表記に基づく。ただし、商品開発に際しては反発もあった。日本文化や東洋思想の大家である天心は、英文の著書『THE BOOK OF TEA(茶の本)』が知られている。そのため地元から「天心とコーヒーと五浦を結びつけるのは違和感がある」との意見が出た。つまりコーヒー店の経営者が、お茶ではなくコーヒーを開発するのは我田引水ではないかと思われたのだ。

そこで行ったのが、文献の徹底調査と茨城大との連携による「お墨付き」だ。たとえば、文献では、天心が渡米してボストン美術館に勤務した時代の当地のコーヒー事情や流通事情を調べて資料を作成した。また、同大の小泉晋弥教授、清水恵美子准教授らとともに研究を進め、当時ボストンで流行したのが浅煎りのコーヒーであることを突き止め、それを再現した。商品パッケージには六角堂を採用し、水墨画風に描いた。

また、県内のもう1つの国立大である筑波大学とも提携している。筑波大はブラジル・サンパウロ大学およびサンタクルス病院と協定を結んでおり、同病院の院長はアリアンサ農園というコーヒー農園を所有している。そこで栽培したコーヒーを使った商品をサザコーヒーが開発し、「筑波大学 アリアンサエステート コーヒー」の商品名で発売したのだ。

もちろん、話題性だけでは人気商品にはならない。そこにはサザコーヒーの品質の高さという裏付けもあった。同社は、コーヒー豆の栽培という「川上」では、自社で農園を保有しているほか、提携する農園から直接仕入れている。また焙煎・抽出といった「川下」では、ドイツ製と米国製の焙煎機を備え、技術を磨き続けている。個人店ながら、川上から川下まで一貫生産の態勢を整えている。あくまで「モノづくり」の品質あってこその「コトづくり」なのだ。

(左)取っ手のない器で提供された「五浦コヒー」(右)サザコーヒー水戸駅店の「抹茶ラテアート」と「カステラショートケーキ」