「お客様は神様」を捨て、過剰サービスを減らせ

これから東京五輪も近づき、恐らくさまざまなサービス提供主体が「おもてなし重視」の方向に舵を切るであろう。そのとき従業員には「100点」のサービスが求められる。しかし、日本のおもてなしは過剰である。たとえばハンバーガーチェーンであろうとも「ご注文は何になさいますか?」「店内でお召し上がりですか? お持ち帰りですか?」「袋(紙袋をさらに包むビニールの手提げ袋のこと)はおつけいたしますか?」と丁寧に喋り、にこやかでいなくてはならない。

アメリカのハンバーガーチェーンであれば、仏頂面の店員が「ネークスト!(Next!)」や「ヒア、オアトゥーゴー(Here or to go)」とぶっきらぼうに言い、英語があまり通じない場合は「ハァ?」と平気で聞き返してくる。こっちは「Vanilla Shake(バニラシェイク)」を頼みたいのだが、「V」と「B」の使い分けがうまくできないと「ハァ?」と返され、「We ain't got no banana shake!(ウチにはバナナシェイクなんてないんだよ!)」と乱暴に言われてしまう。ケチャップを追加してくれ、と頼もうものなら、なぜかよくわからないが店員はケチャップの小袋を大量に鷲掴みをし、面倒くさそうに袋の中に投げ入れる。まぁ、安い店なのだからこれでいいのである。別にチップを払うわけでもないし。

2013年9月、IOCの総会で東京五輪開催が決定したが、あのときは猪瀬直樹都知事(当時)がプレゼンで語った「ダイナミーック!」という「ミー」を強調する妙な発音が印象に残った。本来は「ナ」が強調されるべきである。そして「ー」は不要だ。また、それと同じ席で披露された滝川クリステル氏のプレゼンも耳目を集めた。「オ・モ・テ・ナ・シ……オモテナシ」と言いながら、仏壇店のCMのごとき合掌ポーズを取るシーンも印象に残っているであろう。日本の「おもてなし」精神を否定するつもりはないし、世界にそれをアピールするのも結構。だが、滅私奉公のような過剰サービスを何事においても要求する昨今の日本の風潮は、どうにも違和感がある。

「働き方改革」や残業時間の是正をしたいのであれば、過剰な「おもてなし」は返上し、消費者自身も「お客様は神様です」意識を捨て去り、労働者の過剰サービスを減らす方向に持ち込まねばならないだろう。それにはまず、居酒屋の中国人店員の態度を参考にし、また日本人従業員に若干「おもてなし度合い」が足りない者がいたとしても寛容の精神で臨む必要がある。当然、75~78点くらいのサービスは求めたいところではあるが、95点以上を過度に要求しては「働き方改革」なんてものは永遠に達成されない。

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・「お客様は神様です」的思考を捨て、客は寛容の精神を持て!
・サービスは75~78点くらいで十分。過度な「おもてなし」を求めてばかりでは「働き方改革」なんて実現しない。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。