雑談のネタはその場で見つかる
たとえば「同じ経験がある方、手を挙げてください」のように、聞き手を「話の共同作業者」として引きつけてみる。みんな「自分も何か役割をもたされるかもしれない」と感じることで、これから起こることに耳を傾け、神経を研ぎ澄ますようになるだろう。
松本さんは、まず会場の人たちと話をして、その場の雰囲気を見ておくという。すると、とっさの話のネタになりそうな話題を拾い、そこにある空気を感じることができるからだ。
「『外を歩いていたら、新しい店がありましたね。もう行かれた方?』などと、見たもの、聞いたことを話の入口にすると、みんなと通じることができます。地道な作業ですが、かなり生かせるものです」
難しい話の合間に、会場に少しネタを振るだけで、眠かった人たちも急に目がさえるかもしれない。それも、聞き手の身の回りの話であるほどに、注意がふっとこちらに向くものだ。
「雑談のネタは覚え込むものではなく、その場で見つけるものです。『お、かっこいい手帳をお使いですね。私、仕事用に使い勝手のいい手帳を探しているんです。どこのものをお使いか教えてもらえますか』とか、趣味でもなんでも偶然に共通項が見つかったらそこが突破口。話のつかみは成功したようなものです」
少し話をしておくだけで、まったく見知らぬ人ではなくなり、気持ちが近づくもの。だから、その場にいる人とあらかじめ会話をして共通項を見つけることは、情報収集に加えて自分の緊張をほぐすことにもつながるわけだ。
さて、ときにはこうした緊張によって「頭の中が真っ白になる」ことがある。そう、覚えた原稿がパッとすべて飛んでしまうような状態だ。回避する方法は、松本さん曰く「話すことを原稿に書いてはいけないんです」ということだ。なぜか? そのあたりは、また次回。
(上野陽子=文)