話し手が絶対にやってはいけないこと

「話し手としてやってはいけないのは、相手の反応を無視すること。反応は絶対に見たほうがいいです」と松本さん。一人ひとりの顔を見るようにして話すことが常だという。

「宇宙空間にポーンとボールを投げても、手ごたえが感じられないでしょう。同じように、話す時も手渡すように言葉を伝えるんです。相手の顔を見たほうがいい。顔が見えないときには相手を想定して話したほうがいいですね」

相手のうなずきや表情を見ていると、理解できているか、その話やトーンでいいのかなどが自然とわかってくる。それこそが、話を磨き上げてくれる大切な素材。一人ひとりの反応を大切にして、自分の言葉を選び、相手を話に引き付けるのが松本流だ。

「私は相手がうなずいてから次を言うようにします。それで、話をするちょうどいいスピードがわかります」

なるほど、相手のうなずきと呼吸のタイミングが、今日の話の速さを決める手がかりになるという。だから、カボチャ畑でひとり演説をするようなまねは、決してしてはいけないのだ。

以前にこの連載でふれたが、聞き手の中には必ず話に好意的な人はいるものだ。緊張しそうなら、反応を見てうなずいてくれる人を見つけたらこっちのもの。その人を見ていれば、自分を受け入れてもらえたように感じられるから、これも緊張をやわらげるひとつの方法だろう。もし目を見たら緊張するなら、顔のあたりの、どこか目のあわないところを見ればいい。これで呼吸も読めるうえに緊張もほどけるので、一石二鳥というわけだ。

さらに場を盛り上げるため、自分の緊張も話すことで聞き手を話の「共同作業者」として巻き込んでしまう方法もある。