●「1人が好き」でも諦めるな

脳の予備能が多い人の特徴はわかっている。第1に幼少期の成育環境(遊びや学習の機会が多いこと)。第2に学歴が高いこと。第3にアタマをよく使う職業に従事していたこと。第4に中年期から高齢期にかけて社会的ネットワークが豊富で、活動的な生活をしていること。その4点である。

脳の予備能は、生涯を通じた神経入力量、つまり脳への刺激の合計で決まる。脳に刺激が入ると、神経細胞(ニューロン)の密度が高まり、シナプス(ニューロン同士の網)が形成される。これらが脳の予備能をつくるからだ。

このため内向的で非社交的な性格の人は、刺激が少ないために認知症のリスクが高い。だからといって悲観することはない。1人でいることが好きなら、1人でできることを確実に行えばいい。他人とかかわらなくても心身の活動性は高められる。

1日30分の速歩きを週3回、1年間継続することで脳の海馬の容積が2%も増えるという研究結果がある。海馬の容積は60歳を過ぎると毎年1%ずつ減るといわれているから、こうした有酸素運動はとても有効だ。脳血流が増えるので、血管性認知症のリスクも減る。

知的活動も有効だ。クロスワードパズルなどを頻繁に行っていた高齢者では認知症の発生率が低かったという研究結果もある。一方で、「ぼーっとテレビをみる」というのはリスクを高める。テレビをみるなら、能動的に楽しめる番組がいい。クイズや落語のような集中力の必要な番組がいいだろう。もちろん本や雑誌を読むのもいい。

「ボケたくないから」と修業のようにパズルや運動に打ち込むのはおすすめできない。ストレスは悪影響があるからだ。脳の健康は人生を楽しんだ結果の「ご褒美」だと考えたほうがいい。