「離婚男性」は心筋梗塞が1.7倍に悪化

心筋梗塞や脳梗塞にも、発症しやすい性格がある。とりわけ「抑うつ・不安」といった心理的問題は、心筋梗塞の発生に大きな悪影響をおよぼしている。その影響は、喫煙、肥満、高血圧、糖尿病のような古典的な危険因子と同程度だという研究者もいるほどだ。

英国のヘミングウェイとマーモットは世界中の11の研究データを解析して、すべての研究で「抑うつと不安レベルの高い人」では心筋梗塞の発生率が高まることを突きとめている。このうち1996年に発表されたデンマークのベアフットらの研究では、心筋梗塞や狭心症の既往がない730名を対象に27年間の追跡調査を行っている。その結果、男女とも抑うつ得点の高い群ほど心筋梗塞の発生率は高く、最低と最高の群では2倍近い格差があった。

日常生活でのストレスも関係している。たとえば心筋梗塞の発症率や死亡率は、職種や職階で大きく異なる。驚くべきことに、管理職など階層の高い人ほど、発生率や死亡率は低い。

また配偶者との離別・死別を経験した人は、心筋梗塞の死亡率が高まる。大阪大学の磯博康教授らの研究によると、結婚している男性に比べて、離婚した男性の死亡率は1.5倍に増えた。死因別にみると、心筋梗塞の死亡が1.7倍に増えたが、がん死亡は増えなかった。これは男性だけで、結婚している女性と離婚した女性との間では、死亡率に差は出なかったのである。

男女差の原因は不明だが、人間はストレスを受けると交感神経が興奮する。血圧や血糖値が上昇し、血小板が固まりやすくなる。どれも心筋梗塞のリスクを高めるというわけだ。

ストレスへの受け止め方は改善できる。たとえば、ひと昔前のアメリカでは「タイプA(攻撃的でせっかち)」と呼ばれる行動パターンが成功の条件だと礼賛されていた。だがタイプAの人はストレスを溜めやすく、心筋梗塞の発症率も高かった。そこでリラクセーションや認知行動療法が積極的に導入された結果、心筋梗塞の発症率も死亡率も劇的に減ったのである。