●「性格」でがん発生を防げるか

ここまで「認知症」と「心筋梗塞」のリスクについてみてきた。もうひとつの国民病といえば「がん」である。

私の所属する研究室では「宮城県コホート研究」と呼ばれる長期縦断研究を行っている。1990年に宮城県内の14町村に住む40歳から64歳までの全住民にアンケート調査を依頼し、約4万8000人(全住民の92%)から有効回答を得た。それ以降、がんの発生状況を調査しつづけている。この調査によると、性格と発がんリスクとの間に関連は認められていない。

また国立がん研究センター東病院の1178名の肺がん患者を対象にした中谷直樹氏(現・東北大学准教授)の研究によると、無力感や絶望感といった「気の持ち方」は予後に影響をおよぼさないことがわかっている。

なぜ心筋梗塞や脳梗塞などの循環器疾患では心理要因がリスクを高めるのに対して、がんは無関係なのか。がんの成長には時間がかかる。胃がんの場合、1個のがん細胞の誕生から人が死ぬまで、16.5年から33年を要する。心理的な要因の変化で、がん細胞の分裂・増殖のスピードが変わることがあるかもしれないが、分裂・増殖そのものを停止させることは無理だろう。その点が、リスク(交感神経の働き、血圧、血小板の固まりやすさなど)が常に変化する循環器疾患との違いだと考えられる。

憂鬱で悲観的な人はがんになりやすく、明るく楽天的な人は免疫力が高いからがんになりづらい――。そうした考え方は事実とは異なるのだ。

東北大学大学院 医学系研究科 教授 辻 一郎
東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野教授。1957年、北海道生まれ。83年東北大学医学部卒業。2002年より現職。著書に『健康長寿社会を実現する』(大修館書店)、『病気になりやすい「性格」』(朝日新書)などがある。
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(構成=山田清機)