認知症については、「なりやすい性格」がある。このことは以前から指摘されていた。たとえばノエとコルブという精神科医が1958年に出版した精神医学の教科書には「老年痴呆になるような人は元来、融通の利かない、かたくなな人が多い」と書かれている。

この事実を日本ではじめて証明したのが、1990年に発表された柄澤昭秀博士(東京都老人総合研究所副所長・当時)の研究である。調査にあたり柄澤博士は新しい性格評価表を作成し、「明るい、開放的」「劣等感をもちやすい」「あいそがない」など40項目のチェックリストを用いて、被験者の性格を8つのタイプに分類した(図を参照)。

柄澤博士らは、認知症患者165名とほぼ同年齢の健康老人376名を対象に、40~50歳ころの性格はどうだったかを近親者に質問した。その結果、認知症患者は健康老人に比べて、同調型と執着型の割合が統計学的に有意に少なく、内閉型、感情型、無力型、粘着型の割合が有意に高かった。

個々の性格特徴についてみると「明るい」「社交的」「開放的」といった項目の該当率は健康老人群で有意に高く、「わがまま」「がんこ」「潔癖」「しゃくしじょうぎ」「閉鎖的」などの該当率が認知症老人群で多かったという。今回の取材で、記者から「無口でがんこだとボケやすいのですか」と聞かれたが、この研究結果をみる限り、その通りだと言わざるをえない。

●「予備能」が多いとボケにくい

「無口でがんこだとボケやすい」といって、急に明るくふるまっても、疲れるだけだろう。何かのきっかけで性格が「変わる」ことはあっても、「変える」ことは難しい。それではどうすればいいのか。性格を変えなくても、認知症を防ぐ方法はある。脳をよく刺激して、「予備能」を増やすことだ。

脳に病変が生じても、それに対抗して認知機能を保持する能力がある。これが「予備能」である。人間は日常、潜在的に持っている能力の10%程度しか使っていない。たとえば肺の場合、平常時の呼吸では、健康診断などで測定した肺活量の10%程度しか使っていない。残りの90%が肺の予備能である。同じことが脳にもいえる。

米ケンタッキー大学のデヴィッド・スノードン教授は1986年に開始した「修道女研究」で、脳の病変と認知機能の関係を明らかにした。

これは約700名のカトリック修道女に協力を求め、生前に認知機能などの検査を行い、死後に脳を解剖調査するものだ。この結果、脳の病変が軽くても重度の認知症という人もいれば、脳に著しい病変があっても知的能力は正常という人もいることがわかった。この差を生むのが「予備能」だと考えられている。脳が多少やられても、健常な部分が残っていれば症状は出ないということだ。