雪だるま作りとクチコミは似ている

セオドア・レビットの有名な論文「マーケティング近視眼」では、事業の定義を顧客中心ではなく、製品・サービス中心に考えてしまうことによって、マーケティング活動の範囲を狭めてしまうことの弊害が述べられています。デジタルマーケティングの場合は、目先のデータに振り回されるのではなく、消費者の視点から、製品・サービスそのもの、さらには発信する情報がどうあるべきかを考えることが大切です。

そのうえで、クチコミを広めるには2つの要素が必要です。雪だるま作りになぞらえると「雪質」(=クチコミ情報)と「雪玉」(=知覚認知率)です。

雪だるまを作るときは、初めに小さな雪玉を作り、それを転がして雪を付着させることで、雪玉を大きくしていきます。大きな雪だるまを効率よく作るには、「雪質」と「最初の雪玉の大きさ」が重要になります。さらさらとして湿度の低い雪は固まりにくいため、雪だるま作りには向きません。また、雪玉が小さすぎると、雪だるまを作るのに時間がかかってしまいます。

クチコミが広がるプロセスは、雪だるま作りのプロセスに似ています。雪質が適切で、適度な大きさの雪玉があれば、その情報が消費者の間を駆け巡ることで、新たな消費者の関心をひきつけ、大きなうねりとなっていきます。

では、どのようなクチコミ情報であれば、消費者はクチコミを発信し、消費者間に広がっていくのでしょうか。まず、雪質について考えてみましょう。

クチコミが成立するには、クチコミの発信者と受信者が必要です。発信者にとっては、尊敬や共感などの社会的なベネフィットが発信のインセンティブとなります。発信者がそうしたベネフィットを得るには、受信者がそのクチコミ情報によって機能的・情緒的ベネフィットを得る必要があります。つまり、クチコミが広がるには、発信者・受信者双方がベネフィットを得る状況をつくり出さなくてはなりません。

いくらマーケターが金銭的なインセンティブを提供しようと、消費者は自分が所属する社会集団で受け入れられないような発信はしません。消費者が発信したいのは、周囲の人から感謝され、尊敬される、あるいは楽しい人だと思われる情報です。従って、製品・サービスの好意的なクチコミを広めてもらうには、圧倒的な高便益、新規性、希少性、意外性、心を揺さぶる感動、聞いた人が唸るようなストーリー性などの性質を持った情報をクチコミ発信者に提供することが重要です。

クチコミでの話題づくりに成功した例に、ユニリーバのブランド「ダヴ」が10年以上継続している「リアルビューティーキャンペーン」があります。

従来、化粧品やトイレタリーのブランドは広告などにプロのモデルやタレントを起用して美しさを表現してきました。それに対して同キャンペーンでは、一般の女性を起用し、美しさの既成概念にとらわれず、自分にとって本当の美しさとは何かを消費者に問いかけます。

例えば、初期のキャンペーンでは、さまざまな女性の写真を掲載し、「太っている? ふくよか?」「白髪? 華やか?」などの選択肢を提示して消費者にWebでの投票を呼びかけ、その結果を広告で発表しました。消費者に「美しさとは何か」を考えるきっかけを与えたこのキャンペーンは賛否両論を呼び、多くのクチコミが生まれました。このように、消費者に感情の起伏を引き起こさせるような情報は、クチコミの拡散につながりやすくなります。