拡散のポイントは「ランキング1位」

次に、雪玉の大きさ(初期の知覚認知率)について考えてみましょう。

知覚認知率とは、自分が所属する社会において、ある製品・サービスがどれくらい広まっているかに関する主観的な認知率であり、消費者が所属する社会における「メジャー感」を示すものです。ある製品・サービスがどれくらい社会において認知されているかは、通常「認知率」として企業や調査機関によって把握されます。しかし、消費者自身は認知率を正確に把握しているわけではありません。消費者は「世間でどれくらい知られているのか」を主観的に判断し、知覚された認知率によって行動していると考えられます。

クチコミを広めるための2つの要素

知覚認知率(メジャー感)が低い製品・サービスは、クチコミをしても共感や尊敬を得られにくいものです。以前に実施した調査で、クチコミ受発信意向には知覚認知率の下限があり、下限の値を上回ると消費者のクチコミ受発信意向のスイッチが入り、知覚認知率が上昇するにつれ、クチコミ受発信意向は上がることがわかりました。つまり、メジャー感が高い情報ほど、消費者はクチコミをしたくなるということです。一方で上限もあります。あまりにも普及し、ニュース性の低くなった情報は、クチコミ発信されなくなることを意味しています。

クチコミを広めるために重要なのは、認知率ではなく、知覚された認知率である点がポイントです。認知率と知覚認知率は、温度と体感温度の関係に似ていて、必ずしも一致しません。

真の認知率は広告出稿量と高い相関が予想され、認知率を向上させることは予算が小さく大量出稿のできない弱小ブランドには高いハードルとなります。しかし、知覚認知率、つまりメジャー感はコミュニケーションによって向上させることができます。同調査では、「売り上げランキング1位」や「検索ランキング1位」といったランキング1位であることや、「売り上げ××円突破」などの情報が、メジャー感を向上させ、クチコミ受発信意向にプラスの効果があることがわかりました。

例えば、担当する製品・サービスが、売り上げランキングでは圏外、顧客満足度ランキングでは17位という結果だとします。この情報をクチコミのネタ元として発信しても、消費者はクチコミしたいとは思わないでしょう。このような場合は、「東京都で1位」「40代女性で1位」など、より小さなセグメントに分けて考えれば、1位となる項目が見つかるはずです。一方、知覚認知率の上限を上回るほど広く普及してしまったブランドの場合は、あまり知られていないブランドの歴史や秘話を提供することで、知覚認知率を適正レベルまで下げることができます。

もし、クチコミが広がらないのであれば、このように、クチコミを受発信する消費者の気持ちになって考えてみることが大切です。それこそが、「デジタルマーケティング近視眼」を避けるカギといえるでしょう。

(構成=増田忠英 写真=PIXTA)
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