再生医療の分野で日本が世界一になる条件

東京・浜松町のヘリオス本社にて。

【田原】最後に産業としての再生医療について話を聞かせてください。再生医療の分野で、日本はナンバーワンになれますか。

【鍵本】医薬品の歴史を振り返ると、これまで大きなイノベーションは2回ありました。1度目は、「バファリン」のような粉薬の登場。2度目は、タンパク医薬の登場です。残念ながら日本はタンパク医薬の波に乗り損ねて、リーダーシップを取れなかった。アメリカのアムジェン、ジェネンテックといった企業がタンパク医薬で何兆円企業に成長したことと比べると、対照的です。

【田原】どうして日本は波に乗れなかったんだろう。

【鍵本】新しい技術はリスクがあります。やるなら腹を据えて最後までやり切る必要がありますが、そのリスクを背負えなかったんでしょうね。

【田原】腹が据わらないというのは、日本人の特性ですかね?

【鍵本】日本人の特性かどうかはわかりませんが、日本の株式会社での意思決定が保守的だったということはいえると思います。再生医療は、そうならないといいのですが。

【田原】再生医療は、アベノミクスの成長戦略の一つになっていますね。国としてのバックアップはどうですか。

【鍵本】いまのところ非常にいいですよ。やはり山中伸弥先生がiPS細胞の発明者であったことが大きい。山中先生は人格者です。政府、産業界含めてみんな応援したくなるようです。

【田原】じゃ、いまはいい流れですか。

【鍵本】はい。あえて懸念を一つ挙げると、内弁慶になってしまうことでしょうか。再生医療の分野でいま日本はリードしていますが、日本だけで何でもできると過信すると、かつての携帯電話のようになってしまう。いい流れだからこそ、外のイノベーションも取り込んでいくことが大切です。我々は日本企業ですが、技術に色はない。海外のものも積極的に取り入れ、産業界でデファクトを取っていきたいです。

【田原】わかりました。ぜひ頑張ってください。

鍵本さんから田原さんへの質問

Q.再生医療で人は幸せになりますか?

【田原】再生医療が進むと、人間の寿命は150歳まで伸びる可能性もある。そこまでいくと、人間は生きる意味を問い直さざるをえないでしょう。

人はなぜ生きるのか。その答えを示唆してくれるのは「哲学」と「宗教」です。10代のころ、僕は宗教に興味を持ち、道場破りのようなことをやっていました。終戦を機に価値観をガラッと変えた社会に不信感を持ち、生きる意味がわからなくなったからです。残念ながら宗教では納得のいく答えは得られませんでした。その後は哲学に傾倒。哲学書を読んでも答えはわからなかったけど、生きる意味を考える過程にこそ意味があると思うようになりました。再生医療が進むと、同じように宗教や哲学に興味を持つ人が増えるかもしれませんね。

田原総一朗の遺言:哲学を学んで、生きる意味を問え!

編集部より:
次回「田原総一朗・次代への遺言」は、One JAPAN/One Panasonic代表・濱松誠氏のインタビューを掲載します。一足先に読みたい方は、12月26日発売の『PRESIDENT1.16号』をごらんください。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。
 
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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