次に目指すは「iPSで肝臓再生」

【田原】創薬ベンチャーとして軌道に乗った。そこから最初に聞いた加齢黄斑変性の再生医療にどうやって出会うのですか。

【鍵本】BBGを製品化した後に、また、再生医療の一丁目一番地が目の分野ということもあり挑戦するべきと考えました。それで2社目として2011年にヘリオスを立ち上げたという経緯になります。

【田原】ということは、いまは2つの会社を経営しているのかな。

【鍵本】1社目の会社の事業はヘリオスに営業譲渡し、ヘリオスの経営に集中しています。

【田原】ヘリオスというのは、どういう意味?

【鍵本】ギリシャ神話で「太陽の神様」です。オリオン座のオリオンが失明したとき、太陽の光で治したという逸話のある神様です。

【田原】いま社員数や売り上げはどのくらいですか。

【鍵本】現在、社員は50名強です。売上はBBGのロイヤルティだけなので少ないですね。調達した資金で開発資金をまかなっています。

【田原】眼科が再生医療の一丁目一番地とおっしゃった。次は何でしょう。

【鍵本】次は臓器ですね。横浜市立大学の谷口英樹先生・武部貴則先生との共同開発で、肝臓の再生に取り組んでいます。

【田原】肝臓は再生できるんですか。

【鍵本】iPS細胞からは、目の細胞や神経細胞、心臓や細胞の細胞といった、さまざまな細胞をつくれます。ただ、これまで1種類の細胞は再生できても、複雑な立体構造をしている臓器そのものは再生できませんでした。でも、考えてみたら田原さんも私も最初はたった1つの細胞でした。それがお母さんのおなかの中で十月十日かけて立派な人間になっていく。そこには臓器をつくる堅牢なシステムがあるはずで、その原理を解明できれば臓器の再生も可能です。じつは谷口先生と武部貴則先生のお2人が、その原理を解明しまして。

【田原】すごいな。僕にもわかるようにメカニズムを説明してもらえますか。

【鍵本】細胞は1種類だけだと静かにしています。ただ、ある3種類の細胞を混ぜるとスイッチが入って、自ら組織をつくり始めます。その塊を臓器に入れると、まわりの血管を引き込んで循環させ、臓器の組織をつくり、いろんな酵素を出していくんです。この方法で脳や肝臓、腎臓の一部、肺、精巣といった臓器ができることが、谷口先生、武部先生のところですでに確認されていて、特許も出願しています。

【田原】実用化はいつですか。

【鍵本】横浜市立大学では、2019年から臨床研究を開始予定とのことです。最初は比較的やりやすい肝臓からです。

【田原】これで医療の世界は大きく変わりますね。

【鍵本】はい。少なくとも既存の薬のいくつかは要らなくなると思います。たとえばアルコールが飲めない方っていますよね。じつはお酒に弱いのは、肝臓の酵素が1種類だけないことが原因です。それと同じように、生まれつきある酵素を肝臓でつくれなくて、アンモニアを代謝できない患者さんがいます。そのままではアンモニアの血中濃度が上がって脳に障害が出るので、患者さんは注射して酵素を補充しなければいけません。その費用は5000万~1億円です。しかし、肝臓の一部を置き換えてあげれば注射がいらなくなる。我々が取り組んでいるのはそういう技術です。

【田原】おもしろい。でも、そんなにすごい技術だと、ほかの会社も放っておかないんじゃないですか。

【鍵本】特許については、世界中で独占的に我々が使える契約になっています。ただ、BBGのときと同じように、製品化したら潰しにくる企業が現れるでしょう。そこは死ぬ気で守ります。