がんワクチン:免疫利用で副作用なし。この数年で承認連発か

がん(悪性新生物)は地上最強の「殺し屋」だ。日本人の30%はがんで死亡している。克服は人類の悲願だが、ついにその実現が見えてきた。がんワクチンの登場だ。バイオベンチャー「オンコセラピー・サイエンス」の角田卓也社長はいう。

免疫機能で攻撃する/ワクチンのイメージ画像。紫ががん細胞で、赤がリンパ球、ピンクの細粒がペプチド。

「開発中のがんワクチンはペプチドという特殊なタンパク質の断片を投与し、患者自身の免疫機能を活性化させることで、がん細胞を攻撃する。従来の抗がん剤のような副作用はほとんどない。治療が施せなかった末期がんにも対応でき、しかも安価に大量作成できる」

ペプチドを使うがんワクチンの基礎理論を打ち立てた中村祐輔氏は、2011年、東京大学から米シカゴ大学に移った。オンコセラピー社は中村氏がワクチン開発のために設立したが、治験(厚労省の承認を得るための成績を集める臨床試験)は海外で行う。角田社長は「日本での治験は、弊社のような開発型ベンチャーには資金的に困難」と話す。

日本は治験に対して公的な助成制度が乏しい。一方、シンガポールなどは公的助成を充実させ、世界中から研究者と新薬を集めている。治験と開発は同じ国で行ったほうが効率がいい。このため日本では新薬の導入が海外より数年遅れることが多い。

がんワクチンについても、国内ではまだ承認が下りておらず、久留米大学病院などで臨床試験が行われている。

課題は山積しているが、将来的にペプチドを使ったがんワクチンが承認されれば、治療だけでなく、予防にも大きな効果があると期待されている。たとえば喫煙者は定期的に肺がんワクチンを接種して免疫を高めておくことで、肺がんを未然に防ぐことができるのだ。

「2013年から大型の治験結果の公開が相次いであります。13年に肺がん、14年に弊社のすい臓がん、15年に腎臓がん、16年に前立腺がん。がんワクチンが治療体系へ本格的に入ってくる日は近いでしょう」(角田氏)

いずれも承認されれば1年程度で処方できるようになる。がん治療が変わる未来は、すぐそこまで来ている。