同様に、会議を効率アップに役立てているのが、ハーレーダビッドソン ジャパン(HDJ)の福森豊樹社長である。同社では、奥井俊史前社長の時代から、会議を組織運営の柱としていた。福森社長も、この奥井流を受け継いでいる。
「必要なデータを揃えるなど、各人が入念な準備をして臨むため、会議の内容が非常に濃く、意思決定のスピードも速い。9年前、伊藤忠商事から転職した当初は驚きましたが、今はもう、これが当たり前だと思うようになりましたね」
と、福森社長は話す。
一般的に「会議は時間のムダ」というのがビジネスの定説だが、トリンプといい、HDJといい、スピード経営を旨とする外資系の日本企業が、会議で効率を上げているのは興味深い。
大型二輪車市場が縮小を続けるなか、HDJは24期連続の成長を達成。新規顧客開拓のためのイベント開催など、独自のマーケティング戦略でも注目される。
その急成長をリードしたのが、昨年末まで17年間社長を務めた奥井氏である。トヨタ自動車から転じてHDJの立て直しに着手。「凡事を非凡に徹底する」という執念の経営で成長路線を築いた。
福森社長が転職を決めたのも奥井氏の存在があったから。トヨタ時代の奥井氏と仕事上の接点があり、人柄や仕事ぶりに一目置いていたのである。
「人を巻き込む力があるし、説得力もある。自動車輸出は商社にとって儲けが薄いビジネスなのに、『使うからには商社を儲けさせる』と知恵を絞ってくれた。その考え方は、HDJでも販売店との関係づくりに活かされています」(福森社長)
そんな奥井氏が、意思決定や対面コミュニケーションの場として重視したのが社内会議である。同社には大小の会議室があり、その面積はオフィス全体の3分の1を占める。また、板書した内容をプリントアウトできる「電子白板」が、合計45機も設置されているのだ。正社員60人程度の所帯としては、驚くべき数である。
会議室には、この白板が壁のように並び、各人が自分の考えを、その場で書き出すために使われる。
「事前にまとめたものを提出させる方法もありますが、前日でも当日でも、考える内容はさほど変わらない。ならば頭の中にあるものを、その場で書いてもらったほうが早い」と福森社長は語る。
つまり、具体的に書き出してみることで考えを整理。議論を通じてそれを深化させ、価値判断を共有するのだ。この手法は小人数のミーティングにも活用されている。
情報共有面でも会議に勝るものはないということで、福森社長になってから、社内メールも禁止に。アナログなやり方が、実は思考のスピードを上げ、仕事のムダを省いているのである。