グローバル化が進み、地球がどんどん“狭くなる”昨今。ビジネスの変化の速度は、「ドッグ・イヤー」どころか、18年の変化が1年で起こる「マウス・イヤー」へと加速していると言われる。深刻な経済危機にも、立ち止まっている余裕はない。
「ビジネスではスピードが命。川があれば、あれこれ悩む前に、まず飛び込む。それから状況に応じて、渡り方を考えればいいんですよ」
そう話すのは、トリンプ・インターナショナル・ジャパン前社長で、経営コンサルタントの吉越浩一郎さんだ。「残業ゼロ」制度など、スピード重視の効率経営を敢行して、19年連続の増収増益を牽引した辣腕経営者である。
「完璧な計画を立てようとすると、たいへんな時間とコストがかかってしまう。だから、企画段階では6割か7割の完成度で十分。その段階でゴーサインを出して、走り始める。あとは、走りながら現場で修正を加えたほうが効率的です」と力説する。
仮定のことを悩むほどムダなものはない。即断即決で走り出してから現状に応じて考えるのが得策というわけだ。
そこで必要となるのが判断力である。
変化の激しい今、仕事のスピードは、判断のスピードとも言い換えられる。経営トップだけでなく、現場の責任者にも、迅速で的確な判断が求められているのだ。
「火事の現場で『どのホースを使いましょう?』などと、いちいちトップにお伺いを立てているようでは、あっという間に火が燃え広がり、家が焼け落ちてしまう。そのためにも、責任と権限と情報を部下に与えて、現場を任せることが重要です」
日本式の「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」は、「指示待ち人間をつくるだけ」だと一刀両断。
「上司に説明をするために、パワーポイントでプレゼン資料を作っているような会社に未来はない」と諭す。
なぜなら、やるべきことをいちばんよく知っているのは現場の社員だから。現場に責任と権限が与えられていれば、間違った判断は減り、効率も上がる。
「現場に近いところにいれば、どんなに問題が大きくても正しい判断が下せる。『迷ったら、現場に戻る』のが鉄則。社長時代の私も、それを実践していました」