このように吉越流思考法の基本は「走りながら考える」「常に現場を基点に考える」ことだが、「解決すべき問題に気づいたときは、徹底してやり抜く」ことも重要だという。

現代人は忙しく、片づけなければならない仕事が山ほどある。未着手の案件も知らず知らずに溜まってゆく。

困ったことに、人はどうしても、緊急度の高いもの、やりやすいものから手をつけてしまうため、根の深い厄介な問題ほど、放置される傾向が強いのだ。

そんな厄介な問題に対処する場として、吉越さんは「早朝会議」を利用していた。各部門の問題点を吸い上げ、全社的に課題を共有、デッドラインを設定して担当者に結論を出すよう求めるのである。

「明日までに!」と命じられれば、否が応でも取り組まざるをえない。こうして問題点を片っ端からあぶり出し、迅速かつ効率的に処理していたのだ。

吉越さんの著書でも広く知られるようになった「早朝会議」だが、その雰囲気は独特のものだったらしい。

日本企業にありがちな“御前会議”やブレストのような意見交換とは異なり、報告をする担当者に、吉越さんの鋭い質問が、矢のように飛んでくる。しかも、約1時間半の会議で取り上げられる議題は毎日40件以上。ひとつの案件にかける時間は2、3分程度というから、ものすごいスピードで判断が下されていたことになる。

「ナイフで切り合うような緊張感がありましたね。そうやって毎日、皆と真剣に話し合っているから、女房より親しくなるんですよ」と、吉越さんは笑う。

逃げ場のない厳しさはある。だが、毎朝、顔を突き合わせて情報を共有することが、社内のコミュニケーション向上にもつながっていたという。

(いずもとけい=撮影)