トランプ氏のポジティブで鋭い言葉

ベニハナのウェイティングルームから個室に場所を移したドナルド・トランプ氏、ロッキー青木氏(故人)と井上暉堂(きどう)氏の3人は、当時同店で最も腕のいいシェフの調理した最高級のステーキに舌鼓を打ちながら、会話を始めたという。

ヒルトンホテルからの出店要請を断ったという青木氏にトランプ氏が「それは正解です」と応じ、「ビジネスは“ノー”から始まる」「ほどほどの発想の、ほどほどの仕事量ではなく、人の知らないところで、最低でも普通の人の2倍は仕事をしろ」などと話が進むうちに意気投合。いわゆるユダヤ式商法に傾倒していることでも一致し、ビジネス談義は白熱したようだ。「I'll callenge till I die(死ぬまで挑戦する)」という青木氏の言葉に、トランプが「Me,too」と同意したのを、井上氏はよく記憶しているという。

ステーキ1枚の青木氏に対し、数枚を平らげる若きトランプ氏。

「むしろロッキーのほうがあちこちに話が飛び、議論をふっかけるほうでしたが、トランプは非常に冷静で落ち着いた受け答え。しかも大変ポジティブで、言葉には槍で突くような鋭さがあった」

もちろん、差別的な言動も皆無。2人の脇にいた井上氏もその会話に何とか割って入ろうと苦労したようだ。

「book smart(学識はあっても常識のない人)とstreet smart(抜け目ない人)の違いを二人とも強調。『こんな国(米国)でビジネスをやるんだから、理論や計算で乗り切れるわけがない』というロッキーに、『運やカンもサクセスの重要なファクターだ』などと応じた。私が何とか、『僕は自分自身に勝つことが何よりも大切だと……』と横やりを入れたら、2人ともスマイルで『そうだ、ケニー(当時の井上氏のニックネーム)』と言ってくれた」

米国では「double rainbow(二重の虹)を見た人は大金持ちになれる」という格言があるが、トランプ氏は「見た」と明言したという。

「トランプに『あなたは見ましたか?』と尋ねられたロッキーが『見たことがない。凄いもんだな。なぜだ?』と聞き返すと、『虹の根元に金がたくさん詰まっているからだ』。ロッキーは『Even joke truth in it(冗談の中にも本当があるな)』と大笑いしていた」