フランス右翼ポピュリズム政党党首ルペンの口癖

移民攻撃は、何もトランプに限らない。むしろ、欧州のポピュリストが十八番としてきた手法である。

『ポピュリズム化する世界』(国末憲人・プレジデント社刊)

フランスの右翼ポピュリズム政党「国民戦線」は、移民排斥を主張の中心に置いている。現在の党首マリーヌ・ルペンも「フランスで最も重要なテーマは移民である」と、口癖のように繰り返す。

欧州で2015年から深刻化した難民危機は、彼らの主張をより際立たせることにつながった。

地中海を渡ってくる難民の数は、北アフリカや中東諸国での民主化運動「アラブの春」が進展した2011年頃から急増していたが、シリアでの内戦が激化した2015年に入り、エーゲ海をトルコから渡るルートが定着し、欧州内でも政治社会問題と化した。シリアでの内戦を止められず、逆に介入して拡大を促した責任の一端は、確かに欧米諸国にあった。だとしても、そこから流れ出る何十万人という難民を引き受けるには、欧州は脆弱すぎた。

欧州の大陸に上陸した多数の難民たちは、ドイツや北欧を徒歩で目指した。その映像がテレビにあふれた2015年9月5日から6日にかけて、フランスの右翼ポピュリズム政党「国民戦線」は南仏マルセイユで「夏季大学」を開いた。夏季大学は、フランスの各政党が長いバカンス明けの9月初めに開催する政策論議の集会である。

私がのぞいたその会場では、党首のマリーヌ・ルペンが、壇上から熱弁を振るっていた。

「恐怖の移民危機が日に日に重症化しています。難民申請を口実にした不法移民は、以前からまかり通ってきたのです。もう、一人たりとも入国させません」
「難民問題にも、利点はありました。私たちの長年の訴えが正しかったと証明したからです。移民問題に関して、『国民戦線』の主張はフランス人の羅針盤となっているのです」

他の弁士の多くも、経済や外交の小難しい政策論議よりも、わかりやすい移民排斥の訴えに時間を割く。これを機に人々の恐怖心をあおり、党勢拡大に結びつけようとする戦略が、透けて見える。

難民に対してどれほどの財政負担がかかるのか、といった実務的な問いかけは、ここで大した意味を持たない。「とにかく大変だ」と不安をかき立てることが重要なのである。

人々が抱く不安が増殖する空間に、ポピュリストは生息している。

難民や移民がプラスかマイナスかは、大いに議論のあるところだ。経済界には歓迎する声が根強い。先進国はどこも少子化に悩んでいる。難民は、計算できる労働力なのだ。今回欧州を目指したシリア難民らの多くは渡航費用を捻出できた比較的裕福な層であり、高等教育も受けて、即戦力として期待できる。しかし、そうした現実や詳細に、ポピュリストたちは踏み込もうとしない。