弁護人の手腕は「いかに上手に負けるか」

刑事事件では、被告人の代弁者として弁護人が活躍する。弁護人は、刑事手続において被疑者や被告人がその権利を正当に行使したり、利益を損なわないようにしたりするための支援者・代弁者。

法律面だけではなく精神的支援も行い、裁判では被告人の弁護を行う。弁護士が資格や職業を表す名称なのに対し、弁護人は刑事事件のみで使われる特殊な役割といえるだろう(民事事件では弁護人ではなく、代理人となる)。

なかにはやる気の感じられない弁護人もいるが全体的には少数。罪を認め、言い訳の余地がなく、量刑の相場も決まっているような事件でさえ「そこをなんとか1年でも軽く」と訴える弁護人をたくさん見てきた。凶悪な殺人犯であっても被告人のため熱弁を振るい、とにかくブレない。ときには「なぜ悪いやつの味方をするのか」などと非難されながらも、役割に徹して職務を全うする。

裁判の図式は一般的に、証拠という武器を持つ検察のオフェンス力vs情状酌量を求め被告人の反省ぶりを強調する弁護人のディフェンス力とのぶつかり合いになる。裁判官はレフェリーや採点者というところか。

弁護人の武器は少なく、せいぜい情状証人を呼ぶ程度。否認事件で新たな証人を呼んだり、証拠の矛盾を次々に証明したりして逆襲に転じることはめったにない。ほぼすべての裁判で被告人は有罪になるのだ。弁護人の仕事とは「いかに勝つか」ではなく「いかに負けるか」なのである。

そこで今回は、徹底して被告人の側に立ち、少しでも刑が軽くなるようにあの手この手で奮闘する彼らの話術から、中間管理職の立ち振る舞いを学んでみたい。