日銀の引くに引けない大きなジレンマ

加えて、金融機関、保険会社の収益悪化を招き、副作用が際立ってきたのも現実だ。金融機関の体力低下で企業への融資姿勢が慎重になり、貸し渋りを起こすようなら、マイナス金利政策導入は不発に終わる。確かに、住宅ローン金利の低下や超長期社債の増加などマイナス金利による一定の効果はある。

しかし、ゆうちょ銀行は無料にしていた同行利用者間の送金について10月に手数料を復活するほか、運用困難でマネー・マネジメント・ファンド(MMF)が金融商品として姿を消すなど国民生活にも影響を及ぼし始めた。これではマイナス金利政策は当初の目的を外れ逆回転し出したと映る。

これに対し、黒田総裁は就任以降の金融政策について「総括的な検証」を表明するに至った。日銀は政府との連携を確認しており、量的・質的金融緩和は引き続きアベノミクスを支える。マイナス金利政策の一段の踏み込みは副作用が大きい。溯れば、マイナス金利政策は今年1月の日銀金融政策決定会合で審議委員の5対4の僅差で決まった。リフレ(インフレ喚起)派が押し切った薄氷の決定は、導入に伴う混乱の大きさを暗示していた。

一方、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は「米雇用が改善し、追加利上げの条件は整ってきた」と、9月の追加利上げの可能性も示唆しているだけに、日銀の出方が注目される。手をこまねくようなら黒田総裁が量的・質的金融緩和政策そのものの限界を自ら認め、金融政策頼みのアベノミクスの限界もさらけ出しかねない。日銀は「総括的な検証」に向け、引くに引けない大きなジレンマを抱えてしまった。

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