全サンプルにおける製品創造・改良経験者の割合が6.2%だったということは、290万人の英国民(18歳以上の全国民数は約4740万人)が過去3年間に製品イノベーションを行っていたことを意味する。そこで支出された金額を推定すると英国の全消費財メーカーが投入した年間研究開発額(22億ポンド=約2800億円/10年10月20日現在)の2.3倍(51億ポンド=約6500億円)を超えるものになるという。

調査で明らかになった創造品・改良品が生み出された分野は多岐にわたっている。これまで消費財分野でユーザーイノベーションが報告されてきたのはマウンテンバイクやレゴブロックなどスポーツ・趣味関連のものがほとんどだった。しかし、今回の調査はスポーツ・趣味分野を超えた多様な分野で消費者による製品創造や改良が行われていることを明らかにしている。

フォン・ヒッペル教授の研究チームは最終的に104の製品事例を独自性・新規性のあるものと判断し、9つの製品分野に分類している。具体的には次のようなものだ。全体数に占める割合も併記しておこう。(1)工芸・工作道具(23%)、(2)スポーツ・趣味(20%)、(3)住居関連(16%)、(4)造園関連(11%)、(5)子供関連(10%)、(6)乗り物関連(8%)、(7)ペット関連(3%)、(8)医療(2%)、(9)その他(7%)である(表 「消費者イノベーションの例」を参照)。個々の事例としてはクリケット用バット、ワンタッチ式脱水機能付き洗濯機、自動車バッテリー故障時対応のモーターなどが報告されている。報告された大半の事例はハードウエア(物理的実体を持った製品)に関するものでソフトウエアについてのものはわずか(14%)だった。

製品の創造・改良を行う消費者像について詳しく見てみると、そうした経験があると回答した消費者は過去3年間で平均8個の製品を生み出していた。また9割が自分自身のために行い、製品創造の16%と製品改良の8%だけが他人の援助を得て実現していた。近年、複数の人間が知恵を持ち寄ることで問題解決を行う集合知(あるいは群衆知)という考え方が注目を集めているが、英国の消費者による製品創造・改良においては大きな割合を占めるものではなかった。消費者は集団よりもむしろ単独で製品創造・改良を行っている場合が多かったのである。