消費者の知恵の8割強が埋もれている

製品創造・改良を行っている消費者は人口統計学的にどのような属性を持っているのだろうか。調査によると大卒、技術系、男性、学生もしくは55歳以上で無職という属性を持った消費者が、そうでない者よりも製品創造・改良を行いやすいという結果が出ている。消費者の創造活動には基礎教養、技術、性別、余暇時間が影響を与えていそうである。

また、製品創造・改良を行う動機を重要度の順に挙げると(1)生活をするうえで必要、(2)その過程自体が楽しい、(3)自分にとって学習になる、(4)他人を手助けできる、となっている。これまでは金銭的ベネフィットがユーザーイノベーションの主要な動機と考えられてきた。しかし、今回を含む最近の研究では金銭以外のベネフィットも消費者がイノベーション活動に関わる動機になると考えるようになっており、調査はその考えを支持する結果となっている。

多数の消費者が多様な製品分野で製品創造・改良活動を行っていることを英国の調査は明らかにしたが、そのことは個々の消費者の生活に埋もれてしまっている潜在的製品イノベーションが多くあることを示唆している。実際、英国のサンプルでは消費者が創造・改良した製品のうち、他の消費者や組織によって採用された(つまり同等の製品を他の消費者や組織が複製してつくった)のは全体のわずか17%にすぎなかった。消費者参加型開発といったメーカーが関わるものとは違う、企業活動とは別のところで独自性や新規性の高い製品創造・改良が消費者だけの力で行われている。そのうちの8割強が製品イノベーションに結実することなく、個人の使用のみの状態で留まっていることをこの数字は表しているのだ。

以上のように、英国の調査は多くの消費者が多様な製品分野において、全体として巨額の金額を投資し製品革新活動を行っていることを明らかにした。では日本についてはどうであろうか。同様な調査を今年、私は日本の消費者を対象にフォン・ヒッペル教授らと共同で開始した。現在まで三度の予備調査を行っているが今年の春に行ったものの結果(吉田秀雄記念事業財団より支援)を紹介しよう。

結果は英国の調査とほぼ同じだ。調査は東京都心在住の15~65歳男女を対象に行った。回答者数は754名。過去3年間における製品創造については「経験あり」が3.6%(27名)、製品改良については6.9%(52名)だった(複数回答)。「どちらも経験あり」と回答した者が23名いて、全体としては7.4%(56名)の消費者が製品創造か改良のどちらか一方は経験したことがあるという結果になった。そして製品創造・改良の経験がある回答者でメーカーあるいは他人に採用されたり、真似されたという者はわずか0.7%だった。つまり日本でもかなりの数の消費者が製品創造・改良を行っており、その多くが個人の使用を超えて製品イノベーションに結実することなく留まっている可能性が高いのである。

こうした結果を日本の企業経営者はどう考えるのだろうか。連載を通じて読者とともにこの問題を考える素材を提供していきたい。

(図版作成=平良 徹)