リーマン・ショック後10% 過大評価された円
筆者は、先日、韓国ソウルに出かけて、日韓新時代共同研究プロジェクトのメンバーの一人としてその最終会合に出席した。日韓新時代共同研究プロジェクトは、麻生太郎元首相と李明博大統領のイニシアチブによって進められてきた日韓の研究者による共同研究である。歴史を含む日韓関係、国際政治、国際経済の3分野においてそれぞれ7項目、計21項目の政策提言を含む報告書が日韓政府に提出された。その報告書では、「共生のための複合ネットワーク構築」をめざしている。とりわけ、国際経済においては、現在、交渉がストップしている日韓自由貿易協定(FTA)、あるいは経済連携協定(EPA)について、両国経済にとってその重要性が指摘されるとともに、交渉再開が提案されている。筆者が直接に関わっている国際通貨問題については、アジア通貨基金(AMF)創設のための協力、日韓の円/ウォンの通貨スワップ取りきめの強化、円/ウォン外国為替市場の創設が提案されている。
図1には、2000~01年を基準時として、円とウォンが東アジア通貨(ASEAN+日中韓)の加重平均値であるアジア通貨単位(AMU)に対してどれほどの過大評価あるいは過小評価となっているかを示している。サブプライム問題が露呈する07年夏以前においては、ウォンは20%ほど過大評価されていた。しかし、サブプライム問題が露呈し、さらに08年9月15日にリーマン・ブラザーズが経営破綻した、いわゆるリーマン・ショックが発生すると、ウォンは暴落した。そして、09年初頭にはウォンは30%ほど過小評価された。一方、円は、07年夏に10%強の過小評価にあったものの、ウォンが暴落するのと反対に、リーマン・ショックが発生したときには、10%ほど過大評価となった。このように、サブプライム・ローン問題の露呈およびリーマン・ショックの発生によって、それ以前の円安ウォン高から円高ウォン安へ大きな変動を引き起こした。このような隣国間の為替相場の大きな変動に対して、為替相場の安定化を図ることの重要性が認識された。
東アジアにおいては、通貨危機を管理する手段としてチェンマイ・イニシアチブの下で通貨スワップ取りきめが交わされているものの、チェンマイ・イニシアチブのIMFリンク(まずはIMFによる金融支援を受けて、それから初めてチェンマイ・イニシアチブ下の通貨スワップ取りきめが実施されるという条件)が存在するために、韓国政府は、ウォン暴落を止める目的でチェンマイ・イニシアチブ下の通貨スワップ取りきめは実行しなかった。むしろ韓国政府は、新たにアメリカの連邦準備銀行との通貨スワップ取りきめを締結して、即座に実行した。また、日本銀行と韓国銀行との間で円/ウォンの通貨スワップ取りきめも締結した。