ゲーム理論で説明できる通貨安競争の理由

通貨安競争が発生する理由は、ゲーム理論で説明される。外国通貨当局の通貨安を所与として、自国通貨当局が最善の策を取ろうとすれば、自国通貨を通貨安に導こうとする。自国通貨当局がそうすれば、外国通貨当局も、その通貨安を所与として、最善の策を取ろうとして、さらに通貨安を導こうとする。

このような状況は、「囚人のジレンマ」と呼ばれる。もし口裏を合わせて自白しなければ罰せられずにすむところを、自分だけ自白すれば刑罰が軽減される一方、他の仲間が自白して、自分だけ自白しなければ極刑に処せられると知らされたら、皆が仲間を裏切ってでも自白しようとして、囚人たちが皆自白することになってしまう。囚人のジレンマは、口裏を合わせるという協調がなされないために引き起こされる問題である。そのことから、協調が問題解決手段になるものの、自分だけ自白すれば刑罰が軽減されることを知ると、協調自体が実は脆弱なものとなる。口裏合わせ(協調)を破って、自分だけ刑罰を軽減してもらおうという誘惑(インセンティブ)が存在するために、協調が脆弱なものとなる。その協調を確固たるものとするために、協調を破ったらペナルティを科すなどの対策を行う工夫がなされる。

通貨安競争はまさしく囚人のジレンマの状態にある。そのため、通貨安競争を回避するためには、たとえ単なるショーだという批判を浴びながらも、G20という協調の場が意図的に視覚化され、協調を破ったら、陰に陽に制裁が科せられる状況をつくり出しているのである。また、協調が確固たるものとなるために、協調した場合のほうが、協調しない場合より状況が改善することを理解していなければならない。これらのことが理解されれば、協調に向けた努力を各国政府が取ることが必要であることを容易に認識することとなろう。

しかし、G20を前に、菅直人首相と野田佳彦財務大臣が中国と韓国の通貨政策に対して批判的な発言をしたことに対して、両国で波紋が広がったという報道があった。実際に、筆者が日韓新時代共同研究プロジェクトの最終会合に出席するためにソウルを訪れた際に、そのことが話題となった。非協調の悪い解(ソリューション)から協調のよい解へ国際経済が向かうように仕向けるためには、リーダーシップを持って協調に向けた発言を行うように努めなければならない。まずは、隣国同士の日韓が協調して、「共生のための複合ネットワーク構築」をめざすことから始める必要があろう。

(図版作成=平良 徹)