イノベーションの成功は個人ではなく組織に依存する
前回もこのコラムで述べたように(http://president.jp/articles/-/493)、現在、企業が新たな戦略を達成する組織上の基盤固めのために、戦略的に必要な組織能力を開発するという考え方が重要になってきている。いわゆる組織開発である。背景には、現在、起こっている競争環境と組織環境の急激な変化があろう。
例えば、今、頻繁に議論されるいわゆる経営グローバル化への対応である。現在、多くの企業で、グローバル化対応は、人材の問題として扱われ、グローバル化研修や、また外国人採用などの対策が取られている。だが、そうした試みはあまり功を奏していない。私は、グローバル化対応とは、多くの企業にとって、根本的に組織文化、組織価値観などの転換を伴う組織変革であり、その意味で組織開発の対象だと考えている。
もうひとつの例が、イノベーションである。現在、多くの場面で、イノベーションが、企業成長のカギを握るといわれている。業態や企業戦略によって違いがあるとはいえ、こうした傾向は、ここしばらく強くなってきた。
では、イノベーションは、個人の能力によって引き起こされるのであろうか。もちろんイノベーションは、個人のアイデアにその発端がある。だが、こうしたアイデアを形にし、イノベーションへと繋げていく過程は、個人の仕事ではなく、組織自体が開発すべきプロセスである。また、人材がアイデアを出しやすい環境にあるかどうかも、基本的には組織内の問題である。ここでも、イノベーションを目指す戦略の成功は、一人ひとりの人材に依存するより、組織が持つ能力に依存する要素が大きいと考えられる。
これらはあくまでも例にすぎない。今、単純に人材の能力やスキルなどに還元されない、企業として、組織として持つ能力が、その企業の競争力に大きな影響を与える状況が表れているのである。企業にとって、イノベーションを興し、経営のグローバル化を進めることが重要ならば、それを可能にする組織能力を開発することが大切なのである。マネジャーや経営者は、何が企業にとって必要な組織としての能力なのかを認識し、それを、人材一人ひとりの能力に還元することなく(つまり、単純に人材育成だけで達成できるとは考えずに)、組織が持つべき能力として、組織レベルで意図的に構築し維持することが求められる。それこそが、人材開発と区別された、現代的な意味での組織開発だといえよう。