求められる「自律性の促進」と「達成支援」
では、今、企業にとって重要な組織能力には何があるのだろうか。それはグローバル化対応やイノベーション開発など、新たな戦略達成において基盤となる組織内部の能力である。私は、一般的に見れば、今最も求められるのは、人材をエンパワーする能力と、ダイバーシティ(多様性)を活用する能力であると考えている。エンパワー力とは、働く人を自律させ、一人ひとりの最大の貢献を引き出す能力であり、またダイバーシティ対応力とは、異質性を統合し、新たな方向性やイノベーションへと結びつける力である。この2つとも、組織にとっては、戦略を実行するための基礎体力ともいえる。
まず、人材をエンパワーする能力である。以前にも少し言及したが、エンパワーまたはエンパワーメントという言葉は誤解されて使われることが多い経営用語である。よく「権限委譲」や「仕事を任せる」ことと混同される。経営学辞典などを見ても、同じような定義がある。
だが、本来、エンパワーメントとは、文字どおり、「できるようにしてあげる」ことなのである。いい換えると、目標を達成するために、組織構成員(つまり、従業員やチームメンバー)に自律的に行動する力(パワー)を与えることである。
そして、一般的には、エンパワーメントのためには、「自律性の促進」と「達成支援」という2つのプロセスが必要だといわれる。
「自律性の促進」とは、業務遂行において、リーダーやマネジャーが、目標やビジョンを明確に共有し、その達成方法については構成員の自主的な判断に委ねることであり、一方、「達成支援」とは、具体的な指示や解決策を従業員に与えるのではなく、メンバー自身が問題点を発見したり、不足する能力を開発したりする環境を整えることをいう。単に、自律性を促進するだけではなく、そこに支援が付与されることが味噌である。そのためエンパワーメントは、経営学以外の分野では「自律化支援」と呼ばれることもある。
残念なことに、現在、企業で話をしていると、エンパワーメントされておらず、それがモチベーション低下へと繋がっている人が増えているように感じる。なかでも明確なのは、ミドルマネジメントと若年層のエンパワーメントレベルの低さである。多くの調査を見ても、ミドルが最も有能感やエンパワーされた感覚を持って仕事をしていないという結果が出ている。自律性促進と達成支援とが伴わず、エンパワーメントが、単なる権限委譲に終わっており、従業員の自律化支援になっていない企業が多いからではないだろうか。