ただ、こういう議論をすると反論が出てくるかもしれない。しばしば、海外の企業に比較すると、日本の企業現場は権限委譲が進み、その意味で、現場の人材の知力が活用されることで、大きな成果をあげてきたという主張である。日本の企業は、これまで、現場への権限委譲を競争力の源泉にしてきたというのである。
確かにそうかもしれない。だが、今、多くの企業で、権限委譲が「任せる」だけになっていないか。重要なのは、任せるだけではなく、任せる時点ではっきりと、目指すビジョンと目標を共有し、さらに目標達成の過程では、きちんと支援を行い、さらには、成果が出た後で、しっかりとフォローできるかなのである。
ここまできて、初めてエンパワーメントは、経営施策として、人と組織の活性化に繋がる。人材を自律化し、同時に支援を行う。人材をエンパワーする能力を、組織としてどこまで蓄えているか。それが問われる時代になってきた。エンパワーメントを着実に実行することで、働く人は、自らの潜在能力を発揮する機会を与えられ、全体として、組織が活用できる知力は大きくなるのである。
次が、ダイバーシティを活用する能力である。いうなれば、異質性と混沌を統合し、その中から、新たな方向性を見つけていく力である。
私は、わが国でも、価値観や意識の多様性は、表に現れない深層で案外進んでいると考えている。その結果、これまでわが国の組織が強みとしてきた価値観の統一や考え方の一貫性などは、前提とできなくなってきているのである。
若年層の早期離職、女性活用推進の遅れ、さらには、経営における全体最適志向の弱体化など、今、問題となっている多くのマネジメント上の背景には、こうしたダイバーシティ対応能力の不足があるのではないだろうか。違いを表面化するだけでも、多大なコミュニケーションの努力が必要であり、さらにそれをマネージしなくてはならないのである。ダイバーシティ対応について、これまで心を砕いてこなかった多くの企業が、ダイバーシティ対応能力の不足により、多くの問題を抱えている。