V字型の経済回復を実現したシンガポール
筆者の勤務する一橋大学大学院商学研究科のMBAコースでは、金融プログラムの一環として夏休みにアジアで海外研修を行っている。今年で4回目を数える。
これまでに北京(2007年)、バンコク(08年)、上海・香港(09年)に出かけ、大学(清華大学、タマサート大学、中国人民大学深セン研究センターなど)で講義を受けるとともに、日系および現地の金融機関や製造業企業を訪問してきた。
今夏の海外研修では、シンガポールとハノイに出かけた。シンガポール国立大学ビジネス・スクールやハノイ貿易大学で講義を受けるとともに、金融機関、証券取引所、製造業企業を訪問した。筆者も、MBAコースの学生を引率して、シンガポールを訪れた。
シンガポールは、国際金融センターであるにもかかわらず、08年に発生したリーマン・ショックによってサブプライム・ローン問題が深刻化した世界金融危機から直接には影響を受けなかった。
しかしながら、世界金融危機はシンガポール経済に対して間接に影響を及ぼした。すなわち、欧米の株価暴落に連動したシンガポール株価の暴落による逆資産効果によってシンガポールの国内需要が縮小した。
同時に、世界経済の同時不況によって世界の貿易量が縮小し、国際貿易に関わる産業がその影響を受けて、国際貿易都市としてのシンガポール経済に悪影響が及んだ。さらに、世界同時不況の下で世界経済の総需要が収縮したことによってシンガポールの輸出、すなわち外需が縮小したことによって、国内景気が悪化した。
このような世界金融危機の間接的な影響を受け、09年には、シンガポール経済は、マイナス9%からマイナス6%の国内総生産(GDP)のマイナス成長を記録した。世界金融危機の直接的な影響をシンガポールの金融機関が受けていなかったことから、欧米で起こっているような、金融部門の脆弱化、そして、金融部門への資本注入による財政収支の大きな悪化は目立っていない。
そのため、世界経済、とりわけ、アジア経済が回復するにつれて、シンガポール経済も急速な景気回復を果たした。10年には、13%から15%の極めて高いプラス成長が見込まれている。まさしくV字型の経済回復を実現しようとしている。