外国人や外資系企業招致が経済に活況をもたらす
実際に、シンガポールを訪れて、シンガポール経済が活況を呈していることを目の当たりにした。かつて中小の二体のマーライオン(頭がライオンで体が魚の伝説上の動物の像)の設置されているマーライオン・パークから見える姿は一変していた。かつてはそこからマーライオンとともに海が見えていた。しかし、今は、マーライオンの向こうに、マリーナ・ベイと呼ばれるウオーターフロントに、3つのタワーからなる高層のホテルが毅然と立ち、その3つのタワーのトップは空中庭園でつながっている。
また、その下には、ラスベガス系のカジノがつくられ、マリーナ・ベイ・サンズと呼ばれる高級総合リゾートが展開していた。シンガポールには、昔からセントーサー島と呼ばれるリゾートがあったが、最近、このセントーサー島にもユニバーサル・スタジオとともにカジノがつくられている。
これら2つのカジノは、もともとシンガポール観光のリピーターがいないという反省(実際、筆者も観光目的でシンガポールを訪れたのは1回だけ、ほかはすべて国際会議等のビジネスの目的で訪れている)から、インドネシアや遠く中国の(一説にはギャンブル好きの)華僑や中国人などのアジアのお金持ちにシンガポール観光のリピーターになってもらうのが目的だといわれている。
一方で、シンガポール人にはカジノに耽ってほしくないというシンガポール政府の方針から、シンガポール人は入場料100シンガポール・ドル(約6500円)を支払わなければならない。外国人は無料で入場できるが、パスポートの呈示が求められる(シンガポールでカジノを訪れる方はパスポートを忘れずに!)。
このようにシンガポールは、ウオーターフロントやオフショアの島で外国人にカジノの場を提供することによって、外国人をシンガポールに招いている。それによって、外国人がシンガポールのホテルに泊まったり、食事をしたりして、シンガポールの景気回復や経済成長に貢献してもらうことを狙っている。これは、カジノに限ったことではない。
シンガポール証券取引所も、世界中の証券取引所と連携して、例えば、日経225先物がシンガポール証券取引所に上場されている。シンガポール証券取引所に来れば、世界の証券取引ができるようにして、金融機関やヘッジファンドの誘致を図っている。
また、外資系企業の誘致についても、もともと低い法人税(日本では40%であるのに対してシンガポールでは17%)に対して、シンガポールに地域統括本部や国際統括本部を置く企業には軽減税率が適用されたり、石油製品などの国際貿易に携わる企業でシンガポールをオフショア貿易活動の拠点としている企業に対して軽減税率を適用している。
法人税の引き下げは企業しか恩恵にあずからないと見る、あまりにも直截的な見方をする人がいるが、法人税の引き下げによってその対象企業の生産量が増えたり、あるいは、外資系企業を誘致することができれば、それらの企業で働く労働者も恩恵を得られる。法人税の帰属が資本家のみではなく、資本家と労働者の両方にあるのは理論的には言うまでもない。それぞれにどれほど帰属するのかは、実証的に分析しなければならない。