消費者には「安さ」以外の魅力が必要である
マーケティングのやり方を、ネガティブ・マーケティングとポジティブ・マーケティングとに分けることができそうだ。生活者の満足度を慎重にチェックしながら、「購入しない理由を消していく」やり方はネガティブ・マーケティング。マイナスの点を見つけ、そこを改良する。日々商品の改良が進み、競争に強い商品となっていく。日本企業が得意とするマーケティングだ。
それとは対極にあるやり方は、生活者に向けて「購入する理由を創り出す」ポジティブ・マーケティング。それは、無から有を創り出す志向をもつ。今回は、このポジティブ・マーケティングに注目して、いくつかのケースを見てみよう。
経済学者は、商品は、値段が安ければ安いほど売れると言う。だが、現実には安い商品を売るのはたやすい話ではない。
昔、大手GMS(大型スーパー)のディスカウントの店がわが町で開店した。いたってディスカウント好きなわが家の女房。そこに飛んで行ったのはいいが、その後は行くのをためらう。不思議に思って聞くと、全店黄色いチラシやポスターで覆われたその店は、安さに溢れていると言う。「それが何か」と思ったのだが、「安さだけが煽られていて、何か寂しくなる」とのこと。値段の安さは主婦にはいたって魅力だが、それだけでは彼女たちの気持ちを引きつけることは難しいということなのだろう。
主婦をはじめとして生活者に購入してもらうためには、その安さを煽るだけでなく、それを納得させる合理的な理由が必要だ。「安い理由を理解して購入する」という感覚、「安いから買うというより、この商品の魅力はここにある」という感覚。そういう感覚を、われわれ生活者に提供しないといけない。
シャープは、そのような工夫に長けた会社だ。他社に比べて安価な商品を生産販売するのはもともと得意。だが、「安いモノしか買えない生活者と思われないか」という生活者の微妙な心理上の抵抗を巧みに避ける。古くは「ニューライフナウ」、最近では「目のつけどころがシャープです」という広告コピーでわかるように、安さに加えてもう一つ、「他社とひと味違う技術」を提供する工夫を一貫して重ねてきた。フロントローディング機能を付加したVTR、肩に担いで掃除できる掃除機、両面開きの冷蔵庫などなどはそうした商品だ。