「デコクロ」は消費者イノベーションと言えるのか

前回(>>記事はこちら)はゼロから製品を作ったり、既製品に手を加えて改良する創造活動を行う消費者が無視できないほど存在し、英国では消費財メーカーが投入している研究開発費の約2.3倍の金額をそうした創造活動のために使っていることを紹介した。しかもそこで生み出された製品の多くが本人が使うレベルにとどまっており、企業の製品案として採用され製品イノベーションへと結実していることは非常に少ないということだった。

前回の記事を読んだ人から質問を受けた。自分の身の回りのできごとが消費者イノベーションと呼べるのか、というものだ。例えばユニクロの服にワッペンをつけて自分なりの個性を表現しようとするデコクロ(真相は不明だがユニクロをデコレーションするというところから名前がきたらしい)。こうした既製品に手を加えて自分仕様にしているのは消費者イノベーションにあたるのかという質問だった。

こうした質問が浮かぶのは仕方のないことだ。質問者はたぶん、消費者イノベーションを一目見れば、その革新性や潜在市場の大きさがはっきりとわかると思ったのだろう。しかし、一目でそれとわかるなら経営者や開発担当者が見落とすわけがない。

デコクロを例にとれば、製品イノベーションに結実するまでの道のりは長い。試しに消費者イノベーションに至る連鎖を想像してみよう。ある日、街を歩いていると自分と同じユニクロのダウンジャケットを着ている人を数人、見かけた。ちょっと嫌だなと思ったある消費者はユザワヤに行って洋服などに簡単につけることができるワッペンを購入。それをダウンにつけて着るようにした。そうした自分流の工夫をしている消費者を見かけた別の消費者が自分も同じようにユニクロのアウターの売れ筋商品にワッペンをつけて着るようになる。そうした消費者が増えていることにユニクロやユザワヤ、ワッペン・メーカーが気づき、デコクロ用商品を開発、販売するようになる。そしてデコクロ商品としてヒットする服やワッペンが生まれる。こうした展開になれば確かに、もともとユニクロの服にワッペンをつけたものは消費者イノベーションと呼ぶことができるだろう。

どうすれば革新的消費者に出会えるか

ユニクロ商品は多くの消費者が購入すること(少品種大量生産が可能であること)と引き換えに手頃な購入価格を実現している。機能と価格のそうしたバランスに魅力を感じ消費者は商品を購入している。他方で自分と全く同じ服を着ている人と街で出会いたくないとも消費者は思う。ユニクロ商品に関するこうした矛盾を解決するため、消費者は自分が気にいったワッペンをユニクロ商品に組み合わせて着こなすという工夫をしているのだ。

こうした消費者の創造・改良品の背後にある問題や消費者心理、解決方法が示す方向性を嗅ぎわけることが潜在的消費者イノベーションを発掘するには必要だ。しかも前回指摘したように消費者の創造・改良品はモノづくりのプロであるメーカーからすれば品質や製品の完成度の点で不備が目立つオモチャにしか見えない場合が多い。そうしたオモチャの中に製品イノベーションの胎動を透視していかなくてはならない。消費者イノベーションを初期の段階で見分けることは容易な作業ではないのだ。

メーカーが気づかない間に製品の創造や改良を行っている消費者が無視できないほどの規模で存在するといっても全体に対する割合で見れば(国ごとにその数字は異なるが)10%に満たない。メーカーの開発担当者に取材をすると「消費者からの開発案で目を見張るものが出てくることはほとんどない」という声が多い。もし開発担当者が耳を傾けている消費者が、実は製品に対してあたり障りのない意見しか持たない9割強の消費者だとすれば、そうなるのは当然のことかもしれない。

開発担当者をはっとさせるアイデアを持つ、わずか数%の創造的消費者と出会うにはそれなりの工夫が必要だ。そうでないと革新的消費者に偶然遭遇するのを期待するのは広大な野原で四つ葉のクローバーにめぐり合うのを待つのと似た状況になってしまう。

では、イノベーションを行っている消費者を発見し協力を引き出すための何らかの接近法や仕組みはあるのだろうか。こうした問いに対して、近年のユーザーイノベーション研究は一つの手掛かりを与えてくれるヒントを用意してくれている。

実は、ある特徴を持った特定のユーザーがイノベーションを行っている傾向があることがわかっている。そうしたユーザーはリードユーザー(Lead User)と呼ばれ、次の2つの特徴を持っている。一つがその市場の多数のユーザーがやがて直面する新しいニーズに先行して直面していること、もう一つが、その新しいニーズに対して解決手段を提供するイノベーションを実現することで大きな便益の獲得を期待できることである。