900万台超でGMやVWが視野に入る
燃費不正問題で三菱ブランドは地に墜ちた。今後の三菱自動車を巡っては3つの可能性があったと思う。1つは東風汽車・中国第一汽車など中国メーカーへの売却。世界で最も厳しい排ガスなどの環境規制への移行が見込まれる中国のメーカーとしては三菱自動車の技術力や経験は魅力的だ。2つ目はグーグル、アマゾン、テスラモーターズなどの米国勢。電気自動車や自動運転車などの開発を本格化していくうえで、実際の製造技術と工場を持つ三菱自動車は狙い目だろう。
そして3番目がアライアンス関係にあった日産自動車による買収。時間が経てば上記2つのカテゴリーの会社が救済に走るのを見抜いたカルロス・ゴーン氏の決断と行動力はさすがで、三菱自動車の発行済み株式(拒否権を持つことになる)34%を2370億円で取得するというが、日産にとっては安い買い物だ。
まず日産にとって大きなメリットは「シェア」の獲得である。新車販売台数における日産のシェアは11.1%で、三菱は3.2%。数字だけを見ると三菱の影響力は小さいようだが、実際には日産の製造も三菱が担当しているから、数字以上の効果が期待できると思われる。新車販売台数全体で見ると、三菱は約100万台、ルノー・日産が約852万台だから合わせると900万台を突破する。そうなればGMやVWが視野に入ってきて、一気に世界トップ2、3に食い込める可能性が出てくる。日産にとっては千載一遇のチャンスだ。
またロシアやオーストラリアなどの地域における「三菱のブランド力」も大きい。特にゴーン氏の頭の中にあるのは、数年前にアフトワズ社の経営権を取得(株式を50.1%保有)した「ロシア」だろう。
パリ・ダカールラリーを行えるような荒地が広がるロシアでは、パジェロ、ランサーを擁する三菱ブランドは圧倒的に支持されている。三菱自動車はパジェロの開発を中止する意向だが、ゴーン氏は復活させると見る。さらに、インドネシアやかつて工場があったオーストラリアでも、三菱ブランドは人気が高い。ルノー・日産があまり得意でない地域で、三菱のブランド力を大いに活用できるだろう。
さて、34%まで三菱自動車株を保有したゴーン氏は今後どう動くのか? 燃料不正問題の損害賠償で莫大な損失が出るのは間違いない。三菱自動車の上場を維持したままにしておけば、大規模な損失を計上したときに三菱自動車の株価は一気に下落する。その最安値でゴーン氏は三菱自動車の株を買い増そうとしているのではないかと私は睨んでいる。購買と開発をルノー・日産グループと統合する、ということは今後三菱自は独立ではやっていけない会社になるということだ。
34%の株を保有しているのは、そうした動きを制約されないために、他人にちょっかいを出させないために、拒否権だけは確保した状態にしているのだろう。ゴーン流のしたたかさを三菱グループは見抜いているのか、大いに注目していきたい。