燃費データの不正は、相川社長になる以前から行われていたようで、1991年から法令とは異なる方法で燃費試験を行っていたという。つまり、リコール隠しが発覚する以前から不正は常態化していたということだ。少なくても問題発覚の契機になった軽自動車(eKワゴンなど4車種)で不正が行われた背景について、三菱自動車は国土交通省に提出した調査報告書で3つの要因を挙げている。(1)燃費トップ達成のプレッシャー要因、(2)閉鎖性が強く不透明な組織、硬直化した人事などの組織的要因、(3)管理・検証意欲の欠如、業務委託先任せの対応、高圧的言動などの属人的要因。

重工出身の外様トップ、あるいは独善的な生え抜きトップの下で、現場は「ライバル社に負けるな」とむちゃな必達目標を設定され、実現するためなら机上の計算で数字を操作してしまう―。上からの命令には盾突けない、会社のためなら不正もやむなしというのはリコール隠しと同根の企業体質というほかない。

しかし、社内ではリコール隠しと燃費データの不正は異質なものという認識だったのではないか。そうでなければリコール隠しであれだけ叩かれた裏で、燃費データの偽装は続けられないだろう。リコールと違って燃費性能を少々いかさましても人命には関係ない。自分たちより研究予算が何倍もある相手と競争しているのだから、計算機で数字合わせしても仕方ない、くらいの感覚だったのだろう。相川賢太郎氏が雑誌のインタビューで「燃費なんてコマーシャル。乗る人はそんなもの気にしてない」という意味の発言をして物議を醸したが、実際その通りだと思う。車の燃費というのは運転のうまい人と下手な人で3割も4割も違ってくる。走路や走行条件、燃料、エンジンの寿命によっても違う。メーカーが発表する公表燃費など、ほとんど意味がないのだ。

各メーカーは新車の型式認定を取るときに、燃費データを提出する。しかし、その届け出数値が正しいかどうか、国土交通省はチェックしていない。つまり燃費性能はメーカーの言い値でOKなのだ。競合相手が燃費性能のいい車を出せば、それに合わせて、はたまた上回るように自分たちの車の燃費を上げていくという燃費競争の構図は、そうした業界の慣習にも起因している。その後発覚したスズキの燃費不正が「海風の影響を受けにくい独自の試験方法でやっていた」ことも国土交通省の定めた試験方法が広く受け入れられていないことを印象づけた。届け出だけさせて管理できないなら、国土交通省がでしゃばらないほうがいい。カタログの燃費なんていい加減なものだから、すべて自己責任で買いなさい、とやればスッキリする。国土交通省がのさばるなら、燃費の検定機関をつくるなりして、違反した車種の型式認定を取り消すくらいまでするべきだ。