対談を終えて

実力主義のP&Gでアジア人で初めてアジア統括プレジデントの要職までご経験された桐山さんから、日本人のリーダーが学ぶべきグローバルリーダーの本質を伺った。濃密な対談時間の中から見えた重要ポイントのうち、私は特に以下の2点を強調したい。

第1に、桐山さんは、グローバルリーダーに求められる最も根幹となる部分、それが「情熱」と「徳」であるという。「徳」とは、すなわち他人を受け入れる器の大きさ。いずれも本人自身の評価と、周囲からの評価が大きく分かれやすいものだ。リーダーシップ発揮の大前提は、「周囲からリーダーであると認められる」ことである。

リーダーとして認められる源泉が、「地位(position)のパワー」(あの人は、自分より高いポジションにいる)では不十分だ。むしろ「準拠(referent)のパワー」(あの人のようになりたい)が決定的に重要なのだ。しかるに、周りからその人の「情熱」や「徳」が認められて初めて、リーダーなのである。

では、グローバルな環境でリーダーシップを発揮する場合、いかにして周囲からこの「情熱」と「徳」を獲得できるのか。その答えは、桐山さんが今回おっしゃった最も印象的だった言葉「Speak to Heart」(心に話しかける)にあると思う。グローバルな環境では、多様な国籍を持ち、文化的にも宗教的にも異なるバックグラウンドの中で育った人たちに、組織のミッション達成に向けて、リーダーは効果的に働きかけていかなければならない。しかし、互いの常識も、求める(求められる)基準も、使用する言語も異なる人々に、にわかに「Speak to Head」(理論に訴える)ばかり強調するスタンスでいたならば、人は動くだろうか。これはまさに、日本のリーダーが海外の組織運営で失敗する大きな原因の一つだろう。

第2に、「桐山流グローバルリーダーシップ論」は、グローバル、つまり国境を越えた異国の地でリーダーシップを発揮する場面に限定した論考ではなかった。そもそもリーダーシップとは何だろうか。

組織変革とリーダーシップ研究の重鎮であるハーバード・ビジネススクールのジョン・P・コッター教授は、リーダーシップの本質を類語の「マネジメント」との対比から明確にしている(表参照)。リーダーシップの本質とは「人心を統合する」ことであり、「組織をコントロールする」マネジメントとは根本的な原理・発想・目的が異なる。最後に、対談中の桐山さんの一言、「当たり前のことを徹底させるのが難しい」というフレーズが意味するところは非常に大きい。「リーダーシップ」という当たり前の言葉でも、その本質は常に意識しておく必要がある。

早稲田大学ビジネススクール准教授 竹内規彦(たけうち・のりひこ)
2003年、名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程修了(博士〈学術〉)。その後、独立行政法人・日本学術振興会特別研究員(SPD)、東京理科大学准教授、青山学院大学大学院経営学研究科(戦略経営・知的財産権プログラム)准教授等を経て、12年より現職。
(玉寄麻衣=構成 的野弘路=撮影)
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