意識変革促す官僚のパワーダウン

もっとも、浅田さんにしても、戸塚さんにしても、東大を卒業したのは30年近く前のこと。その後、バブルの崩壊があったり、経済や社会環境は激変している。そのことは浅田さんも認識していて、東大出身者の意識の変化について次のように話す。

「若い世代の意識の大きな転換点となったのが、98年に発覚した大蔵省の接待汚職事件です。これを機に官僚の力が弱まり、法学部のなかでも官僚を目指す人間が減りました。官僚になっても外資系の金融機関やコンサルティング会社へ転職する者が増えています。東大中退ながら、ホリエモンのような先例も生まれ、『自分も起業したい』と考える者も現れているようです」

そうした浅田さんの見方を裏付けてくれるのが、2億~3億円以上の純資産を持つお金持ちを顧客にし、仕事や生活などさまざまなシーンでの彼らの問題解決を事業にしているルート・アンド・パートナーズの増渕達也社長だ。

「私自身も東大卒で、92年に卒業する際には霞が関のほうを向いている友人が多くいました。しかし、いま現役の東大生に『財務省とグーグルのどちらを選ぶ?』と尋ねたら、グーグルに分があるのではないでしょうか。また、東大卒の起業家も続々と誕生しています。私の顧客を出身大学別に見ると東大がトップで全体の約10%を占めています。そして、そのうち3割ほどが起業家ないしは事業家なのです」

実は、13年度の大学別の卒業生の数を見ると、慶大・6694人、早大・9281人、そして東大が3129人。ざっくりいって、東大は早大の3分の1、慶大の2分の1の卒業生しか送り出してこなかったのだ。それでいて増渕社長の顧客の出身大学別ランキングでトップであるのなら、東大はお金持ち輩出率という点で意外と健闘しているのかもしれない。

それと増渕社長がいうように、実際に東大卒の起業家が続々と生まれ、なかには株式の上場を実現させ、将来の“ビリオネア”候補と目される若手経営者が現れている。デジタル画像処理技術を専門とし東大出身の技術者が中心のモルフォの平賀督基社長(40歳)、微細藻類であるミドリムシの研究、開発、販売を手掛けるユーグレナの出雲充社長(35歳)、情報キュレーションサービスを提供し2015年4月に上場したばかりのグノシーの福島良典社長(27歳)が、その人たちだ。

「世代が若くなればなるほど、官僚志向が薄れていきます。東大卒の顧客の皆さまの約3割が起業家や事業家だとお話ししましたが、近い将来7割まで増えていくのではないかと見ています」と増渕社長はいう。そうなると、フォーブスの日本版長者番付へのランクインもありえるのだろう。いずれは東大卒の超お金持ちが続々と誕生し、「なぜ東大卒はお金持ちなのか」といわれる日がくるのかもしれない。