高くても選ばれる、若い社員は挑戦を

キヤノンマーケティングジャパンにはもう1つ、「顧客主語」という標語もある。社長就任時の社内報には「お客の目線で自分の行動を検証し、自分の言葉や行動はお客のためになっているかを常に考える。それが、言葉に込められた意味だと思う」と書いた。

言葉は、大切だと思う。標語も大事だし、話すときにはストーリーが整っていないと、趣旨が伝わりにくい。相手が聞いて「ああ、そうだな」と思ってもらいたいから、情緒的な言い方は曖昧になって好きではない。微妙なニュアンスの違いで、明らかに相手の受け取り方が違うことを、営業の対話の積み重ねで知った。問題が起きたとき、最初のひと言が、その後の行方を決めることもあった。だから、原稿を書くときは練りに練り、「これでいいかな」と思っても、もう一度考える。

かつての部下が「坂田さんは血液型がA型で、論理的に細かく詰めるし、言葉も選ぶ」と言うが、そういう気質なのだと思う。40代をはさんで14年間、机の引き出しに、いつも赤のボールペンとサインペンを入れていた。部下が出してきた提案書や企画書に朱を入れて、言葉の大切さも教えた。

会社は一時、「非キヤノン」の売上比率に目標を掲げ、社長就任前に達成していた。だが、就任直後の取材に「今後は、ITソリューションが、あらゆる分野のベースになる。そこを基本に製品やサービスを組み合わせ、付加価値を高めていく」と明言したうえで、数値目標は重視しないと言い切った。目標を設けると、その達成が優先され、「顧客のため」が後回しになりかねない。それでは「止於至善」から離れてしまう。

キヤノンは6年前、1分間に新聞1246ページを印刷できる高速印刷機を持つオランダ企業を買収した。今年は監視カメラに強いスウェーデン企業、昨年にもネットワーク化のソフトを持つデンマーク企業を買った。どちらも、多くの分野が成熟してきた日本市場でも、新しいニーズが期待できる。「止於至善」の追求には、親会社との連携強化も欠かせない。というよりも、連携を深める分野が広がることを、楽しみたい。

キヤノンの国内販売部門が分離して、前身のキヤノン販売ができて満45年。1月下旬には、12月決算の発表に併せ、2016年から5年間の長期経営構想を発表する。成長のカギは、やはりITソリューションが握る。中核事業に、育てなくてはいけない。海外展開も、いちだんと進めていく。

そのためには、社員たちがもっともっと、顧客の本音を聞けるようにならないといけない。社員たちには「まだ、目標の2、3合目にしかきていない」と言っているが、率直に言って、6合目くらいまではきた。いまは、いくらいい提案をしても「安いほうがいい」と別の選択をされることもある。「同じ値段なら、キヤノンを買うよ」というところまで、早くなってほしい。「ちょっとくらい高くても、仕方ない」と買ってもらえたらもっといいし、「もう、きみのところしかない」と言われたらベストだ。若い人たちに、ぜひそうなるように挑戦してほしい。

キヤノンマーケティングジャパン 社長 坂田正弘(さかた・まさひろ)
1953年、東京都生まれ。77年明治大学商学部卒業、キヤノン販売(現・キヤノンマーケティングジャパン)入社。2003年MA販売事業部長、06年取締役、09年常務、13年専務。15年より現職。
(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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