そして一番難しいのが奢らずだ。とくに仕事がうまくいき、出世の階段を上っていくと、だんだん我を忘れ、自慢話をするようになる。ところが、上から目線で話をする人に限って人気がなくなっていくもの。常に自分で警鐘を鳴らすようにしなければならない。

左遷されても「焦らず、腐らず、奢らず」の精神で真面目に仕事に取り組んで実績を挙げていれば、必ず見てくれている人がいるものだ。

私は学生運動に熱中し、逮捕されて教師の道を諦めざるをえなかったという苦い挫折を味わった。その後西友に入り、良品計画でゼロからのスタートを経験するはめになり、今に至っている。

人間万事塞翁が馬。将来どうなるかなんて誰にもわからないが、たった一つ、言えることがあるとすれば、人生に無駄な経験など一つもないということだ。会社が危機的状況に陥ることもあれば、自身も病気やケガに見舞われることもある。上司と折り合いが悪くなって左遷させられることも、珍しいことではない。そういう修羅場のときこそ、どのようにして乗り切ろうかと一生懸命に考えるものだ。そうして人は成長する。

私の感覚では、大きな挫折を経験することなく、大事に育てられてエリートコースを上がってきた経営者はすぐにダメになってしまう。

逆境でも腐らずに結果を出してきた経験が、物事の本質を見抜く力になると信じている。

良品計画会長 
松井忠三
(まつい・ただみつ)
1949年、静岡県生まれ。73年、東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒業後、西友ストアー(現・西友)入社。92年良品計画へ。2001年社長に就任。赤字状態の組織を改革し、業績のV字回復に尽力。
(溝上憲文=構成 徳山喜行=撮影)
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