希望学の第一人者である東京大学社会学研究所の中村尚史教授を迎えた対談の3回目。30年にわたり企業改革を続けてきたセーレンの事例から、他の企業が学べることは何か。中村教授にズバリ伺った。
▼対談前編: http://president.jp/articles/-/16494
▼対談中編: http://president.jp/articles/-/16599
逆ピラミッド発想だからこそ、現場がよく見える
――中村教授は希望学の福井調査にあたり、セーレンという会社を隅々まで研究し、さまざまな知見を得られたのではないかと思います。セーレンの事例から他社が参考にできることはありますか。
【中村】ひとつは、セーレンの「5ゲン主義」です(5ゲン主義については、連載第2回参照 http://president.jp/articles/-/14461)。「現場」「現物」「現実」の三現主義をもとにしたこの考え方は、一般的に現場労働者が注意すべきことと捉えられがちですが、セーレンの場合は違います。逆なんです。管理職のための教訓として実践されている点が、非常にユニークです。
管理者とは、現場が成果を出せるよう支えるのが仕事、というのがセーレンの考え方です。ですから、経営者や管理者を頂点とするピラミッドではなく、現場を頂点とする逆ピラミッドになっている。セーレンが再生不能と言われたカネボウの繊維部門を買収し、わずか2年で再建できたのも、この考え方が企業の根幹にあるからでしょう。この5ゲン主義の考え方は、他の企業でもぜひ取り入れてみるとよいと思います。
【川田】先日、ある新聞で読んだのですが、ソフトバンクホークスの工藤監督も現場を第一に考えているようですね。試合の6時間前には球場に入り、選手がどんな練習をしているのか、練習態度や調子はどうかなどしっかり見るそうです。また、遠征の日も、試合が終わった後の夜中に戻るか、もしくは朝一番に戻り、2軍選手の練習を見るそうです。
とにかく現場を徹底的に見る。これこそ5ゲン主義ですよ。組織の上であぐらをかいていては下の人間のことを理解することはできませんが、工藤監督はいつも現場を見ているからこそ、選手の実力や調子の良し悪しがわかって、適材適所での選手の起用やチームの活性化につなげているのでしょう。野球の世界もやはり現場なんだと思いましたね。