数字に表れない資産こそ、大事にすべき
【川田】近年は、四半期ごとに利益が上がったとか下がったとか、目先のことを取り上げてメディアが騒ぎ立てる傾向がありますが、数字に表れない資産、例えばモチベーションや人材力、開発力、職場環境などをもっと大事にしないといけないと思いますね。いまの企業評価基準で考えると、数字に表れないことは無駄として切り捨てられるのかもしれませんが、長寿企業を目指すなら、数字に表れない資産をしっかりと蓄積していくことが大事なのではないでしょうか。
【中村】同感です。私がこの対談の中盤でお話しした「組織の余裕」にもつながってくる話ですね(連載19回参照 http://president.jp/articles/-/16599?page=2)。
【川田】利益ばかり追っていると、粉飾といった事態が起こりかねませんから。
【中村】セーレンの利益率(ROE)は、じつはそれほど高くありません。私はそれに意味があると思っています。企業の目標は何かというと、短期的利益を最大化することではないはずです。数字に表れない部分も蓄積して、組織に余裕を持たせることのほうが、企業の永続性を考えればベターな選択ではないかと思います。
例えば、セーレンが提案するアパレルのパーソナルオーダーは、開発から30年かかってようやく実を結び始めました。30年は長い道のりですね。「パーソナル化」の実現はセーレンがずっと掲げてきた目標でしたが、それにようやく社会が追いついてきた印象です。少し先の未来を見据えることは企業にとって重要ですが、かなり先だと時期尚早になってしまう。会社に体力がなければ、目標を掲げ続けることが難しく、途中であきらめざるを得ません。
その点、セーレンは組織に余裕がありますから、30年間も持ちこたえられたんです。組織に余裕があれば、次の手も打てる。次の20年、30年を通して、セーレンのどんなシーズが実を結ぶのか、いまから楽しみです。
セーレン会長兼最高経営責任者
1940年、福井県生まれ。62年明治大学経営学部卒、同年福井精練加工(現セーレン)入社。87年社長就任。2003年より最高執行責任者(COO)兼務。05年より最高経営責任者(CEO)兼務。05年に買収したカネボウの繊維部門をわずか2年で黒字化させる。14年より現職。セーレン http://www.seiren.com/