――需要家にはどう接するべきだとお考えでしょうか。

自分を殺して、さっと相手の中に飛び込んでいけるようなタイプの人がいます。自分のことを主張するのではなく、相手に合わせられる人です。いい悪いは別として、営業の現場では有効に働くことが多いですね。言い換えれば、需要家と議論してはいけないということです。大上段に振りかぶって、「お言葉ですが、私はこう思います」とは言わない。経験上、そうなれば7~8割はしくじります。言い負かされるために、議論を吹っかける人はいませんからね。

些細なことでも気をつけたほうがいいでしょう。趣味の話は熱くなりがちです。たとえば自分が巨人ファンで、「今年は調子がよくて気分がいいです」と言ったら、相手が阪神ファンだった――、ということもあります。相手から「どちらのファンですか?」と話を向けられても、ひとまずは「私は野球はあまりよく知らないから」とかわしたほうがいい。話を合わせるにしても、嘘はつかないことです。「私も阪神ファンなんです」「じゃあ誰のファンだ?」と聞かれたら困りますから。どこかでボロが出るものです。

「太鼓持ち」だと言われればそれまでですが、つまらないことで突っ張っても仕方がない。若いうちはなかなか理解できないものですが、結局は商品を売るのが営業の仕事なんです。小平が言うように、ねずみを捕らなきゃいけない。商品が売れなければ、なにを言っても言い訳にしかなりません。

――なによりも相手の感情を第一に考えることが重要なのですね。

その通りです。それでも価格ばかりにこだわる相手には、別途考える必要があります。繰り返しますが、価格を切るだけのセールスマンはいりません。どう考えても受け入れられない価格を求められた場合には、取引を見直すしかないでしょう。ただし永遠に同じ人が担当を続けるわけではありません。最悪の場合でも、組織同士の付き合いが途切れないように、慎重を期すべきです。