――現場の担当者と裁量権を持つ上司ではどちらに重点を置くべきでしょうか。

もちろん需要家のキーマンとの絆が重要です。「下」だけの場合は、どれだけ仲よくしていても、「上」が取って代わるといったことで、これまでの努力が水泡に帰すことがあります。

私は、営業とは「賽さいの河原」だ、と悲哀をこめてぼやくことがあります。河原で石を積むように、どれだけ努力を積み重ねても、それが絶対に堅固である保証はないのです。実際には悲哀を感じている余裕もありません。営業は、次々に変化する不特定多数を相手にする仕事。変化に対応していかなければなりません。

ときにはキーマンが異動したり、力をなくしたりすることもあります。周囲の人間とのチャンネルを閉ざし、キーマンとの交渉を続けてばかりでは、変化に対応できません。キーマンとの絆をきちんと結びつつ、それ以外の人たちにもしかるべき気配りを図ることです。自分の頭越しにやり取りをされた部下の立場で考えればわかると思います。

――相手の立場で発想すれば、答えは自ずと明らかになりますね。

そうですね。「下」ではなく、自分自身が「上」の立場にいるとすれば、また違ったアプローチが必要です。心がけるべきことは「援護射撃」でしょう。自分が前に出るのではなく、担当者同士がやりやすいように仕向けます。

たとえば「いつも××さんのおかげで大変助かっています。今度、ぜひ当社の担当者を連れてお礼にうかがいたい」と切り出す。立場のある人間が訪問すれば、相手もキーマンを出してくるでしょう。そこでは需要家の担当者を徹底的に褒める。相手の顔を立てることで、組織同士のつながりも深くなります。そうなれば上司は昼寝していても大丈夫ですよ。