あるとき、スタッフと話をしていて、西條氏の口から次のような言葉が自然と出てきたという。

「あなたを助けるために、会社は何ができますか?」

スタッフにモチベーションを与え、潜在的な能力を顕在化させたいという西條氏の思いが、そのような質問に行き着いたのだと安部氏は考察する。

「その頃の西條さんは、スタッフのチームワークやモチベーション、生産性を高めるために自分は何ができるかということを一生懸命考えるようになっていました。それぞれの分野の専門家を束ね、力を引き出し、サポートしていく社長になられたと強く感じました」

コーチングは、自己主張と感情表出という2つの軸をもとに、コミュニケーション・スタイルによって、人を4つのタイプに大別して考える。

(1)人も場も支配しようとするコントローラー
(2)人に影響を与えたいプロモーター
(3)人間関係をもっとも重視するサポーター
(4)分析と問題解決を重んじるアナライザー

西條氏は本来、このうち2つの要素を持つコントローラー・プロモータータイプだ。もともと人を勇気づけたり、フィードバックする力はあったが、人の話をじっくり聞いたり、自分と違う価値観を重視するということは苦手だった。しかし、コーチングという軸を持ったことで、相手の自立性を尊重するリーダーへと、変化を遂げていった。

「自己開発魂が嵩じて、認定コーチの資格も取得しました。はじめは自分の考えた答えへ導きたくなったり、論理でスタッフを説き伏せそうになりました。しかし、徐々に自分の感情を距離を持って観察することができるようになるにつれ脇役に回って相手を本当に大事に考えられるようになった。そうすると、自分の価値観を押し付けることはなくなり、相手の価値観の中で、能力を伸ばしたいと考えるようになります。今では、コーチとしてのあり方が自分の経営者としての姿勢であると実感するようになりました。『質問一発で社員をやる気にさせる経営者になりたい』と思っています」(西條氏)

コーチングは現在も続いている。安部氏は、自分を客観視するうえで欠かせない、コミュニケーションのパートナー、言ってみればもうひとりの自分のような存在だと西條氏は感じている。

「西條さんは、人の能力を引き出す、究極のゼネラリストになられたのだと思います」(安部氏)

ふたりの好例が示すように、コーチングスキルを活用すれば、メンバーの潜在能力を引き出し、行動につなげるマネジメントが実現するだろう。