実現には、成形や鋳造、溶接の代わりに使うボルトの開発など、様々な技術の組み合わせが欠かせない。そうした部門の技術者たちを率いて、欧州の二輪車メーカーなどを回り、外観をきれいに仕上げる「欧州のモノづくり」も視察した。出した結論が「溶接機や溶接条件、溶接作業などを論理的にそろえれば、『溶接ゼロ』もできるはず」だ。

ただ、コストが高くては、実用化できない。部下たちから、いろいろな相談や報告がきた。もう煮詰まっている場合は即決するが、もう少し考えなければいけないと思ったら、「2週間後に、また話そう」と言う。「2週間で、もっと煮詰めてこい」との意味を、ソフトに込めていた。

報告に欠陥があっても、怒らずに聞く。怒ると、萎縮して、煮詰め方がぎこちなくなる。それよりも、相手にとって思わぬ点を突いて、発想を転換させる。前号で触れた「固定観念を捨てる」の手法だ。その積み重ねで「溶接ゼロ」を実用化へと近づけ、森町工場から赴任したフランスに滞在した時期に欧州の人気車種で実現した。のちに社長に就任して手がけた車種では、コストを予算内に収めるところまで前進する。世界でも、追随を許していない。

「2週間後に」は、フランス工場でも、口にした。2001年7月、46歳で赴任した欧州最大の二輪車の製造拠点は、パリから北へ車で1時間余りのサンカンタンにある。ユーロが現金通貨として流通する半年前で、景気が変動して市場は落ち込み、過剰在庫を抱えて、販売促進費も膨らんでいた。ところが、工場の面々は「個を尊重」という文化・国柄を映し、バラバラで、チームとして動かない。そのままでは再建も難しいので、会社を欧州で人気があるサッカーに喩えて、説いた。

「サッカーでは、得点能力が高いフォワードへミッドフィルダーやボランチが球を出し、好機をつかむことが多い。それを企業に当てはめれば、フォワードは生産や販売の現場で、生産管理部門はミッドフィルダーやボランチ、経理や人事が最後のディフェンスラインとなる。サッカーのように、フォワードに当たる現場を、全員で支えようではないか」

この喩えも、得意の「わかりやすく」から生み出した。でも、チームプレーは、なかなか浸透しない。もう1つ、繰り返したのが、時間を与えて論理を煮詰めさせる手法だ。欧州にはもう1つ、「論理的思考」を受け入れる文化もある。「2週間後に、また話そう」は、けっこう、功を奏した。