「0-8」から「9-8」へ引っくり返す力とは
この早実の上を行く、大逆的劇もあった。
それは石川県大会、準々決勝。松井秀喜さんの出身校である星稜と、小松大谷(以下、大谷)の対戦。イニングスコアはこうだ。
星稜 000101010=3
大谷 000000004=4
9回裏の土壇場で試合を引っくり返した。
実は、このドラマには前段がある。昨年の夏の予選でも、両校は決勝で対戦した。その時のスコアはこちら。
大谷 150110000=8
星稜 000000009=9
つまり、大谷は昨年、甲子園の切符をかけた大一番において、8-0の圧倒的有利だったにもかかわらず、9回裏に、一挙9点を取られサヨナラ負けを喫した。しかし、今夏は雪辱を果たした。
「大逆転サヨナラ返し」である。
大谷の先頭打者は、主将の下口玲暢(れおん)捕手だった。左翼線2塁打で出塁する。
下口の証言。
「去年は星稜の主将が先頭で出塁して流れが変わったので、今年は僕が出塁しようと思った」
下口は去年、8-0から逆転される前の9回表、先頭打者として打席に入り、三振している。相手の星稜は序盤にKOされセンターに回っていた岩下大輝(現ソフトバンク)を再び、マウンドに送り、諦めないぞ、という気持ちを前面に押し出していたのだ。
大谷は下口以降、簡単に3者三振に倒れ、流れを渡してしまっていた。
下口は「勝ったと思ったわけではないですが、気持ちが抜けていた。何かが起きるかもしれない」と思ったという。
話を、逆転に成功した大谷の9回裏に戻そう。星稜の投手は下口の2塁打で明らかに動揺して、次の打者の初球に死球、その次には四球で無死満塁にしてしまう。
星稜ベンチはライトの守備についていたエースをマウンドに戻したが流れを止められなかった。
ここから内野安打でまず1点。センター前ヒットで同点に追いついて、最後は4番がレフトへの犠牲フライで逆転勝ちした。