もちろんどんな仕事にも常に120%の力で臨まなければならないというわけではない。70%ですむ仕事もある。しかしながら、自分の正味の実力を正確に把握していないと、どこまでが70%かも判断できず、自分では70%だと思っているだけで、実際には50%の力しか出していないということにもなりかねない。いつも50%で働く人を、果たして会社は必要と思うだろうか。

また、一生のうちに何度かは、120%の力を発揮しなければならない局面が、誰にも必ず訪れる。そのとき、一度でも限界まで働いたことがあれば、自分はここまでできると自信を持って立ち向かうことができるはずだ。けれども、11秒台で走れる潜在能力があるにもかかわらず、いつも力を余して13秒台でしか走っていない人は、ここは11秒台で走らないと勝てないという大勝負に、足がすくんでしまう。そういう人は使いものにならないのだ。

それから、仕事の目的が自分の成長や自分の生活の充実だと、肝心なときに踏ん張りがきかない。私は若いときから終始一貫、会社のために何ができるか、会社にとっていちばんいいことは何かを考えて仕事に取り組んできた。自分のためより会社のためのほうが、ハードルははるかに高い、だからこそ、やらなければならないという使命感が生まれ、それが仕事に迫力をもたらすのだ。

もうひとつ大事なのが、前向き(ポジティブ思考)であるということ。悲観的になっていいことはひとつもない。どんなに厳しい状況に置かれても、自分にできないはずはない、必ず乗り越えられると思って立ち向かえば、光明は見えてくる。私は意識してものごとを前向きに考えるようになってから人生が変わった。前向き思考は誰でも訓練で身につけられるので、ぜひやってみてほしい。

富士フイルムHD会長 古森重隆
1939年、満州生まれ。長崎県立長崎西高卒業。63年東京大学経済学部卒業後、富士写真フイルム(現・富士フイルム)入社。96年富士フイルムヨーロッパ社長、2000年社長就任、03年社長兼CEOを経て、12年より現職。
(山口雅之=構成 大沢尚芳=撮影)
【関連記事】
なぜか苦境を跳ね返す人、飲まれてしまう人
人事部の告白「40代で終わる人、役員になれる人」
部下にリードさせるリーダーはなぜ最強なのか
リストラだけでなく、イノベーションを起こせなければリーダーとは言えない
なぜトヨタでは課長研修で"志"を問うのか