数字や情報から、物事の本質をとらえるためにはどんな訓練が必要なのか。富士フイルムの戦略と古森会長の言葉から、ビジネスマンが学ぶべきポイントをまとめた。

【1】数字から変化のスピードを読み取れ

会社を取り巻く環境の変化を正しく把握するためには、富士フイルムホールディングス代表 取締役会長兼CEOの古森重隆氏が説くように顕在情報だけでなく、断片情報や沈黙情報を総合して見ることが大切だ。業界のトレンドやテクノロジーの進み具合、競合メーカーの動きに常に目を凝らして先読みし、後れを取らないようにしておきたい。

先読みで意外に難しいのが、変化のスピードだ。富士フイルムを襲ったデジタル化の波は、まず印刷と医療の分野で起きた。本をつくるための製版用フィルムやレントゲンフィルムなどがデジタル化されていった。それに続いて写真フィルム、映画フィルム、マイクロフィルムなど、様々なフィルムがデジタルに置き換わっていくのだが、なかでもカメラのデジタル化は古森会長の予想を超える速さだった。

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富士フイルムの事業構成推移

当初、「デジタルはまだ画質が十分ではなかったので、しばらくはフィルムとデジタルが並行すると思っていた」という。実際、レントゲンや印刷関連のグラフィックアートなどのデジタル化は緩やかだった。ところが、プロやハイアマチュアが好む高級カメラを除き、一般ユーザーが使うカメラは瞬く間にデジタルカメラに変わっていったのだ。変化のスピードは業者向け、専門家向けのカテゴリーより消費者向けのほうがはるかに速いと考えておいたほうがよさそうだ。

【2】6、7割の勝算で勝負に出る

新しい事業に打って出るかどうか。決断するのは実に難しい。といって手をこまねいていればチャンスを逃す。今の事業がじり貧ならなおさらだろう。

富士フイルムも主力であるフィルム事業があっという間に衰退していく事態に見舞われた。古森会長が最初に指示したのが、新事業に進出するための技術の棚卸しだった。

300から400の単位の技術が集まり、それをもとにアイデアを出し合った。そのなかに液晶材料もあり、熊本と静岡に生産工場を建て、既存工場も含めて多額の投資を古森会長は決断する。しかし、まだ今後、液晶材料が成長するかどうかわからない段階での投資だった。古森会長はこう言っている。

「五分五分の勝負だったらまずやりません。6割か7割は勝てるとわかったからやれるなと判断できました。それだけ確率があれば、あとは『やり遂げるんだ』と思えばいい」

経営に絶対はない。挑戦してみないとわからないが、まずは情報を集めてみて成功の確率をはじいてみることが肝要だ。そして成否が五分五分なら、もう少し時間をかけて情報を収集して、勝つ確率が高くなるまで待つ。6割、7割勝てる見込みが立てば新事業に手をつけ、残りの3割、4割は努力で補うという気持ちで当たるのだ。